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球界インサイドレポート

ヤクルト打線変革の理由に迫る

 

現在セ・リーグ5位と苦戦を強いられているヤクルト。しかし低迷するチームとは思えないほどの得点力を誇っている。6月7日現在でチーム得点291、打率.286はともに12球団トップである。そのカギを握るのは、今季から一軍打撃コーチに就任した真中満杉村繁だろう。昨季イースタン・リーグでチームを優勝に導いた両コーチがもたらした意識改革とは――。
※記録はすべて6月7日現在
文=菊田康彦 写真=BBM

▲今年のヤクルト打線は、6月3日のオリックス戦で完封負けも、開幕から54戦連続得点するなど、12球団トップの得点力を維持している



二軍選手の開花

 12球団一の強力打線だ──。ここまでセ・リーグ5位、ただいま真っ盛りのセ・パ交流戦では12球団中9位と低迷しているヤクルトだが、打線は非常に活発。5月31日のソフトバンク戦(ヤフオクドーム)では18安打、11得点で大勝するなど、チーム打率.286、1試合平均5.3得点は両リーグNo.1である。

 ヤクルト打線の何が変わったのか? 打線の中心、四番に座るのは今年もバレンティンで変わらない。昨年、日本記録を49年ぶりに塗り替えるシーズン60本塁打の金字塔を打ち立てた主砲は、今年も18本塁打とアーチを量産している。しかし、小川淳司監督に「バレンティンが目立たない。周りが打ってるからね」と言わしめたこともあるほど、今年は脇を固める打者の活躍が目覚しい。

 なにしろ、一番・山田哲人、三番・川端慎吾、六番・畠山和洋の3人が打撃10傑入り(畠山は6月8日の西武戦で負傷し、登録抹消)。バレンティンと、その後を打つ五番の雄平も3割近い打率を残している。

 その中で初の開幕一軍入りを果たし、不動のリードオフマンとして打線をけん引しているのが、プロ4年目の山田だ。昨シーズン序盤までは遊撃守備での送球難に悩み、それがバッティングに悪影響を与えていたが、昨年5月の一軍昇格後にほぼ二塁に専念してからは、見違えるようにハツラツとプレーしている。

 打撃では、以前は引っ張り専門。ホームランバッターを目指していた時期もあったという。それが昨年はファームを担当していた杉村繁打撃コーチの指導で、広角に打てるようになったのが大きい。今では「センターからライト方向に強い当たりを打つのが僕のバッティング」という。実際、今季の安打の6割は、センターからライトに打ったものだ。

 昨年、ファームで杉村コーチの薫陶を受けたのは、山田だけではない。今年は交替で二番を打つことが多い比屋根渉上田剛史、そして遊撃の定位置確保を目指す荒木貴裕も、杉村コーチの指導で打撃開眼した「杉村チルドレン」である。

 ルーキーだった10年にいきなり開幕スタメンに抜擢されながら、その後は伸び悩んでいた荒木は昨年、杉村コーチとともに徹底してティー打撃に取り組み、イースタン・リーグ首位打者を獲得。今年は実績のある川島慶三森岡良介らの故障で4月下旬に一軍に昇格すると、そこからはほぼレギュラーで起用されている。5月3日の阪神戦(神宮)では8回に貴重な追加点を挙げ、お立ち台で「打席に入る前に杉村コーチから“センターを意識して打っていけ”とアドバイスされたので、肩の力を抜いて上手く打つことができた」と“師匠”への感謝を口にした。

 彼らを育てた杉村コーチは00年から07年までヤクルト、08年から11年までは横浜(現DeNA)の打撃コーチを務め、昨年から古巣に復帰。05年にヤクルトの青木宣親(現ブリュワーズ)、08年に横浜の内川聖一(現ソフトバンク)が首位打者を獲得したのは、この名伯楽の存在と無縁ではない。

正しいフォームの構築

 その指導における最大の特色はティー打撃を重視していることだ。それもスタンドに立てた球を打たせたり、単にトスした球を打たせたるといったシンプルなものだけでなく、バランスボールに腰かけたまま打たせたり、少し下がったところから歩きながら打たせてみたり、あるいはワンバウンドしたトスを打たせたりと、バリエーションが実に豊富。その種類は軽く10を超える。

 もちろんその一つひとつに意味があるのだが、ティー打撃の最大の目的は「正しいフォームを作ること、そしてそのフォームに戻すこと」だと杉村コーチは言う。

「正しいフォームを作っても、試合に出るとどうしてもフォームは崩れる。だから翌日(ティー打撃で)正しいフォームに戻して練習に入る、そしてゲームに入るってことが大事。結局、ゲームの中で自分を助けてくれるのは正しいフォームなんです」

 一軍コーチとして迎えた今春のキャンプでは、昨年は極度の不振にあえいだ畠山と二人三脚のティー打撃で、フォーム固めに取り組んだ。これで本来のバッティングを取り戻したかつての四番は、開幕から好調をキープ。5月に入ってやや不調に陥ったものの、今年は「戻るところ、原点がある」(畠山)と瞬く間に復調し、現在は打率.322でセ・リーグ5位にランクインしていた。

積極性の徹底

 今季のヤクルト打線を見ていて目につくのは、早いカウントから打ちにいく積極的な姿勢だ。

「とにかく積極性だと思います。各バッターが狙い球を絞って、初球からドンドン勝負をかけているのが結果となって出るんじゃないかと思います」

 チームの打撃好調の要因を問われた小川監督がそう答えたのは、巨人のお株を奪う猛打で快勝した5月15日の試合後のこと。巨人主催3連戦では実に17年ぶりの3連勝を飾ったこの試合で、2ラン本塁打を含む4安打をマークした畠山も「コーチからの指示でドンドン行けということなんで。追い込まれてからいろんな球種に対応するよりは、早いカウントでしっかりプランを立てて(狙い球を絞って)いくのが大事。(凡打しても)チームの方針としてOKなんで、そこはみんな気にしていない」と、各バッターの思い切りの良さの“秘密”を明かした。

「指示」を出している真中満チーフ打撃コーチは、昨年までは二軍監督として、ファームの若い選手たちに積極的に打ちにいく姿勢を徹底していた。その結果、昨年のヤクルト二軍はイースタン・リーグでもダントツのチーム打率.293をマークし、安打、得点、打点でリーグ新記録を樹立。チーム防御率5位の投手陣を補って余りある強力打線で、みごとに5年ぶりのリーグ制覇を成し遂げた。一軍のコーチとなった今シーズンも、真中コーチはことあるごとに「積極的にいけ」と若い選手たちを鼓舞している。

▲5月の月間MVPを獲得した雄平は、早いカウントから積極的に打ちにいくことで、自分のバッティングを取り戻した



「真中さんには『点差がどんなに離れていようが、打っていっていいぞ。凡打したらこっちの責任だから』って声をかけてもらっている。それでいい意味で割り切れて(早いカウントから)振れているのが大きいと思います」と、5月に打率.387、12打点の好成績を残した6年目の捕手、中村悠平も証言する。

 打線の「積極性」を象徴する選手が、打率.364、8本塁打で5月の月間MVPに輝いた雄平だ。投手から野手に転向して今年で5年目。昨年は右ヒザ前十字靭帯断裂でシーズンの大半を棒に振ったが、辛いリハビリに耐えてついに大ブレークを果たした。一時は調子を落とし、結果が出ないことで迷いが生じたこともあったというが、「中途半端なバッティングをしないで自分のスイングをしたほうがいい」という小川監督のアドバイスで、持ち前の思い切りのよさを取り戻した。

「追い込まれるまではフルスイング」(雄平)というそのスタイルは、確実に結果に結びついている。ここまでカウント0-0、1-0、2-0からファーストストライクを打ちにいったときは54打数23安打で打率.426。セ・リーグでは日本人トップの10本のホームランのうち、6本はファーストストライクを叩いたものだ。

 もっとも、打撃は水物と言われるだけに、いつまで好調が続くかは分からない。交流戦の折り返し地点となったオリックス2連戦(京セラドーム)では、計8安打、2得点と沈黙した。しかし、2戦目は犠牲フライとスクイズで挙げた得点を、先発の石川雅規から最後はルーキーの秋吉亮につなぐリレーで守り、接戦をモノにしている。

 5月はセ・リーグトップの月間13勝11敗と持ち直したヤクルトが、苦手の交流戦で少しでもいい位置につけ、さらにリーグ上位に食い込んでいくには、こういう試合は不可欠。そのためには、現在チーム防御率で両リーグワーストの投手陣の奮起が必要となる。好調の打線にいつまでもおんぶに抱っこというわけにはいかないのである。
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