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プロの荒波にもまれる“金の卵”たちの現在地

高卒ドライチの青春航路

 

1月の新人合同自主トレでプロのキャリアをスタートさせてから、早くも半年を数えた。高卒でドラフト1位入団した金の卵たちも、それぞれのプロ野球人生を歩んでいる。ただ、誰もが悩み苦しみ、時に喜びがありながらの日々であることは間違いないだろう。プロの荒波にもまれるドライチたち。彼らの青春航路は視界良好か――。

天・松井裕樹[桐光学園高→楽天]
克服できない制球難 メンタル面の弱さも露呈

 何度もマウンドの上で天を仰いだ。楽天松井裕樹は2カ月ぶりの先発復帰のマウンドで見せた自分の投球に失望の色を隠せなかった。6月19日の広島戦(マツダ広島)。4回を投げて、3安打3失点。6三振を奪ったが、5四球と制球を乱し、5回のマウンドに上がることはなかった。

 降板直後、左腕は「良いイニングと悪いイニングがハッキリしていた。4イニング目の感触は良かったですが、長いイニングを投げさせてもらうには、イニングの波をなくさなくてはいけない。そのあたりが反省です」と振り返った。何とか良い部分もあったと自分に言い聞かせようという気持ちをのぞかせたが、成長の足跡を残すことはできなかった。

 2回まで打者が一巡する間、7人の打者の初球がボール球だった。初回こそ3者凡退に仕留めながら、2回に崩れた。3四球で一死満塁のピンチを招いた。それでも三振を続けて奪って切り抜けた。3回にも連続四球にボークが絡んで二死二、三塁とし、ロサリオには追い込みながらも2点打を浴びた。たった1安打で2失点。4回には二死から連打で失点。制球難から失点を招いた。

 4回を投げて、イニング数を上回る5四球を与えた。デビュー戦から二軍降格までの先発4試合と何も変わっていなかった。先発した5試合すべてで5四死球以上を与えている。「良いイニングはあった」としても、その現実を、もう一度しっかりと受け止めない限り、プロ1勝を手にする日は遠ざかる一方だ。

 課題は克服したはずだった。5月に登板したイースタン・リーグでは先発2試合、リリーフ4試合の計6試合20回1/3で与えた四死球は8つ。5月30日の二軍戦・西武戦(鶴岡)では6回15奪三振の快投も見せた。無走者の場面でもセットポジションから投球するなど、自ら考えて制球改善に取り組んだ。セットの投球フォームも、安定性を重視したものに変更。

 二軍に降格したとき、星野仙一監督は「オープン戦ではストライクが入っていたのに、公式戦でなぜ入らないのか」。そこを突きつめることを求めた。しかし、その答えは見つかっていなかった。

 登板を見守った佐藤義則監督代行は「ブルペンでは球が抜けないのに試合では抜ける。(四球を出すと)『あぁ』という顔をしたりと精神的に何かあるのかもしれない」と首をかしげた。

 試合前も、メンタルの不安定さを感じさせる場面があった。プレーボールを数時間後に控えたころから、緊張感を身にまとっていた。先発登板前にリラックスすることは難しいとはいえ、投げ合う相手は広島のエース・前田健太。球界のエースと高校を卒業したばかりの新人。「実力の差は目に見えているので、自分がやれることをやって胸を借りて頑張りたい」。マウンドでもその言葉どおりに向かっていく気持ちがあれば、結果は多少なりとも違ったはずだ。

 先発復帰を前に一軍では6月7日の中日戦(ナゴヤドーム)でリリーフ登板した。2回を1安打1四球無失点。このときは0対6の大量ビハインドという状況で5回からマウンドに上がった2番手。比較的精神的な負担も少ない場面だった。一方で、結果を残そうという思いが強かった先発復帰戦。早く1勝したいという焦り、四球への恐怖心、自分に課した重圧、気負い……さまざまな思いに屈した形となった。

 今のままでプロ1勝を手にすることは難しい。佐藤監督代行は、今後の起用法について「これから考える」と明言は避けた。ただ、またチャンスは巡ってくる。登板翌日には全体練習で訪れた甲子園に足を踏み入れた。1試合22奪三振の新記録を樹立した高校2年夏の大会以来となる聖地だ。そのことに多くを語らなかったが、原点とも言える球場で外野を疾走し、ボールを追いかけた。何かを変えないと、かつて甲子園を沸かせた黄金左腕にとってもプロ1勝は現実のものにはならない。もう一度、自分を見つめ直すことから成長の道を歩んでいくしかない。

▲4月23日以来、約2カ月ぶりの先発となった松井だが4回3失点と結果を残せなかった



日 鈴木翔太[聖隷クリストファー高→中日]
主力級と対戦して得た今後に向けた大きな財産

 竜のドラフト1位右腕、鈴木翔太が、6月17日の西武戦(浜松)で一軍デビューを果たした。

「上での1試合は、二軍で何試合も投げるのに匹敵する」という首脳陣の育成方針にしたがって、地元・浜松に合わせ1日限りの昇格。試合展開も敗色濃厚とあって、0対4の8回に登板が実現したのだった。

 チームによる英才教育が約束された逸材だ。谷繁元信兼任監督が映像を見て一目惚れしたのは、そのしなやかな腕の振り。ただ、不安も抱えていた。高校3年生になる直前の3月に右ヒジを故障。ボールを持てない日々が続いた。ドラフト会議当日、松井裕樹(桐光学園、楽天1位)の“外れ1位”で中日から自らの名を呼ばれると、くっきりと大きな瞳からは自然と涙があふれ出た。

「つらく苦しい時期を周りの人が支えてくれて……。そのころがふと脳裏をよぎって、涙が止まりませんでした」

 そのベールを脱いだのは春季キャンプ前の新人合同自主トレだった。ナゴヤ球場での投球練習を視察した森繁和ヘッドコーチは「さすがドラ1。腕のしなりやヒジの出し方は天性的なもの。キャンプ中に落合(博満)GMや谷繁監督らに見てもらいたいし、一軍に呼ぶことも考えている」とその才能を絶賛した。

「まずはケガをしない体を作りたい。じっくり時間をかけ、プロの体にしていきたいと思っています」

 ドラフト指名後の鈴木は慎重な姿勢を崩さなかった。それでも、こうも口にしている。「もちろんチャンスがあれば、一軍で投げたい」。だが、それが6月に実現するとは、本人としても想定外だったろう。「3つアウトを取れたことは大きな経験だし、打たれたことも課題になりました。やはり上の打者は少し甘く入るだけで打たれることが分かりましたから」

 秋山翔吾に初球をとらえられ、これがソロ本塁打となったが、金子侑司メヒアから2奪三振。「オーラがすごかったです」と話した中村剛也ら主力級と対戦できたことは、今後に向けた大きな財産となるはずだ。

▲英才教育を施されている鈴木。一軍登板を成長の糧としていく



西武 森友哉[大阪桐蔭高→西武]
打撃で非凡な才能を発揮 リードは二軍で勉強中

 球団の育成方針の下、入団当初から1年間はファームでじっくりと育てると明言されてきた西武ドライチの森友哉。6月22日現在、イースタン・リーグではチームで2番目に多い50試合に出場し、ケガなどもなく順調に経験を積んでいる。

 入団前からバッティングはプロで十分に通用すると言われてきたが、ファーム開幕から非凡な才能を発揮。春の新人合同自主トレを視察した田辺徳雄監督代行(当時一軍打撃コーチ)が「思い切りの良さとスイングスピードの速さを兼ね備えている」と評価していたが、ここまでプロの壁にぶつかることもなく、持ち味を出している。

 数字的にも3月から大きな波もなく打率3割程度をキープ。53安打、3本塁打、25打点、打率.308でイースタン打率10傑入りと、高卒ルーキーとしては申し分ないスタートと言っていいだろう。潮崎哲也二軍監督も「バッティングに関しては一軍でも十分にやれるでしょう」と太鼓判を押している。

 それでも、現状はすぐに一軍昇格ということはなさそうだ。現在、若手捕手がしのぎを削る西武のファームだが、最多の31試合で先発マスクをかぶるなど次代の正捕手として育てていこうという球団の方針は明らか。二軍首脳陣は「打たれても、それで勉強してくれれば」と配球面も森に任せているが、連打されたときなどはまだまだ不安を見せる場面も多い。自身のサインでは打たれ、ベンチに指示をあおぎ、バッテリーコーチのサインで抑えられるのはなぜなのか――。

「今、一番勉強しているのは、リードの部分でしょうね」と潮崎二軍監督。それでも、キャッチングやスローイングなど捕手としての技術面は格段に進歩を見せている。

 一軍デビューを展望するとすれば、来季の開幕か。現在の力を知る潮崎二軍監督が「来年は開幕から炭谷(銀仁朗)と競いながらやっているんじゃないですか」と予言するだけに、高卒ドライチ捕手が正捕手の座を脅かす日はそう遠くはなさそうだ。

▲現在、二軍で試合に出続け経験を積んでいる

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