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高校野球スペシャル

やはりNo.1─荒木大輔が見た安楽智大 大いなる可能性を持った唯一無二の逸材

 

今秋ドラフトにおいて高校生では注目度No.1の安樂智大(済美高)。夏の県大会では3回戦で涙をのんだが、その評価が変わることはない。1位指名で消えることが確実な安樂の実力を、昨年までヤクルト投手コーチを務めていた荒木大輔氏[野球評論家]がチェック。坊っちゃんスタジアムで行われた2回戦(7月22日)、新居浜東高戦で剛腕の投球をじっくりと観察し、評価してもらった。
構成=小林光男 写真=早浪章弘



恵まれた体格から繰り出される剛球


 やはり高校生No.1右腕だ──。安樂智大のピッチングをこの目で見て、スカウトの評価の高さに納得した。7月16日、右ヒジ故障から297日ぶりの公式戦復帰となった愛媛県大会1回戦の三島戦(西条)から中5日となった新居浜北戦(坊っちゃん)。テレビ中継のスピードガンで最速147キロと自己最速157キロに遠く及ばず、当然、まだ本調子といえないのかもしれないが、非凡なところが随所に垣間見えた。

 まず、目についたのは立派な体格だ。187センチ85キロと非常に恵まれており、ほかの選手とは明らかに体つきが違う。バランスが取れているようだが、特に強じんな下半身には目を見張らされた。聞けば太ももの太さが68センチだという。私の現役時代の59センチを上回っているし、相当太い方なのは確かだ。きっと、故障で投げられない間、厳しいトレーニングを自らに課したはずで、その成果でもあろう。投げられないなら、筋力アップに励む──。いま自分にできることを的確に考えて、それをしっかりとやり遂げる。逆境をプラスに変えるという、そういった点も非常に魅力的だ。

 この力強い下半身が可能にしているのが、左足を低い位置でキープしたまま体重移動する投球フォームだろう。左足を上げ、真っすぐ立つ姿勢も力が抜けており素晴らしい。そこから体を沈み込ませ、投球動作に移っていくわけだが、それができると「間」や「ため」をしっかりとつくることにつながる。やはり、これは力強い下半身がなければできないことだ。

▲体の開きを抑えるフォームから、力のあるストレートを投げ込む



 さらに投球フォームでいえば、高く上げる左腕も特徴的だが、それがリリース時には右胸あたりに置かれている(大写真参照)。左腕を巻き込むように使うことで、体の開きを抑えているのだろう。実はキャッチボールのときに、右胸に手を置くことはアメリカ球界でよく教えられることだ。体を開かないという意識づけをキャッチボールの段階からやっているわけだが、安樂もそれを強く考えているのだろう。そうすることによって、ストレートがシュート回転することも減って、右打者の外角にしっかりと制球することが可能となる。この試合では2回に日野から見逃し三振を奪った、外角ストレートが非常に素晴らしかった。

 本人は「テークバックが小さくなり、リラックスして投げることで球の力強さが増した」と語っていたようだが、それも確かにプラスに作用しているのだろう。始動から力が抜けているのは感じられる。

あふれんばかりの投手としてのセンス


▲初戦の三島戦で視察に訪れた阪神・中村GM。その他多くの球団が安樂に熱視線を送る



 ただ、気になったのはストレートで空振りをあまり奪えていなかったことだ。この日はストレートを36球投じていたが、空振りを奪ったのはわずか1球のみ。故障明けで打者との対戦も不足して、実戦勘がにぶっていることも、その原因としてあるのだろう。本人も「まだ100パーセントではない」と言っていたみたいだから、そのあたりは今後、徐々に解消されていくのだろう。

 とはいえ、ストレートの質も高く、高校生離れしており、その他の変化球も素晴らしいのは間違いない。例えばスライダーも球速があり、低めに制球されており、高校生レベルではなかなか打てないだろう。習得を目指していたスプリットも投げていたが、球場の上部に設置されている記者席からでも、その落ち具合が分かった。打者も腰が砕けたようなスイングをしていたから、かなりの落差があるのは確かだ。

 ただ、持ち球としてあるカーブは、もう少し抜け具合が良くなれば、さらに威力を発揮するはずだろう。今のままだと球速がスライダーと大差ない形になっている。もっと、ブレーキが利くようになれば、緩急を使えることになり、相手打者はさらに攻略が困難になってくるように思う。

 投手としてのセンスも十分に感じられた。「相手がストレート狙いでくるから、初回はスライダーから入った」「左打者にはスピードよりもインコースをしっかり突くことを考えた」と試合後に語っていたようだが、そうやって自分を客観的に見て、相手をしっかりと観察できるというのは大きな武器。きっと野球のことをしっかりと考える、野球頭に優れているのだろう。そういったことができれば、たとえ調子が悪くても、それなりのピッチングができるようになる。勝てる投手には必要不可欠なものだし、成長を果たすために欠かせない要素だ。

 私が高校生投手を見る際のポイントはまずスピード、それに考える能力になる。その両方の部分で高い要素を兼ね備えているのは間違いない。性格的にもキャプテンを務めるなど、真面目でしっかりしていると聞いている。当然、そういった部分もプロで大成する選手に必要不可欠な部分。これまでの球界に存在しなかった、オリジナルな投手になる可能性も十分に秘めている。本当に、将来が非常に楽しみな逸材だと思う。

 7月24日、愛媛県大会3回戦の東温戦に先発した安樂だが、5回にスクイズで先制点を許すなど、9回を投げ11三振を奪いながら5安打、4失点。味方打線も振るわず、1対4で敗れ去ってしまった。「自分の力不足で負けた。日本一という目標を果たすことができなくて悔しい」と涙に暮れた安樂。進路に関しては「何も考えられない」と語ったが、プロの舞台が怪物右腕を待っている。荒木氏がこう評価を下したように、その可能性は無限大。新たなステージで「日本一の投手になる」という目標に向かって走り出してもらいたい。

PROFILE
あんらく・ともひろ●1996年11月4日生まれ。愛媛県出身。187cm 85kg。右投左打。高知市立高須小2年時から軟式野球を始め投手。愛媛・道後中では松山クラブボーイズに在籍し、2年夏に県大会優勝。済美高では1年夏から県大会全5試合に登板。同秋は四国大会4強。2年春のセンバツ準優勝。同夏は県大会準決勝で157キロ、甲子園2回戦では最速タイの155キロを計測。3回戦敗退後は新チームの主将に就任。18Uワールドカップ(台湾)では銀メダルの獲得に貢献。同秋の県大会は初戦敗退、春は中予地区予選敗退。今夏の県大会は3回戦で敗れ去る。

PROFILE
あらき・だいすけ●1964年5月6日生まれ。東京都出身。右投右打。早実高1年時に甲子園で決勝進出。その大会から春夏5季連続甲子園出場を果たし、大ちゃんフィーバーを巻き起こす。83年ドラフト1位でヤクルト入団。86年に2ケタ勝利をマーク。89年よりヒジの故障などで3年間投げられなかったが93年に復活して8勝。96年に横浜へ移り、同年限りで引退。西武、ヤクルトでコーチを歴任し、14年からは解説者として精力的に活動している。
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