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第3回 世界中の野球女子の夢、ワールドカップ開幕!

女子プロ野球界のスター・川端友紀選手。兄はヤクルト川端慎吾選手


試行錯誤を続けながら、現在まで歩みを続けてきた女子プロ野球の世界を追った特集企画の最終回。9月1日に迫ったワールドカップへかける思いや現在のプロリーグの課題を中心選手たちが語ります
第2回「甲子園を目指せない少女たちへ、プロという夢の始まり」はこちらです。
女子野球ワールドカップ2014の試合プレビューはこちらです。

取材・文・写真=赤見千尋

ソフトボールでオリンピックに出ることが夢だったが…


 中学・高校で野球部に入れなかった野球女子たちが進む道の一つに、ソフトボールがある。野球とソフト。一見似ているように見えるけれど、選手たちに言わせればまったく別のスポーツだという。女子プロ野球リーグの創設で、トライアウトに挑戦して来た中には、ソフトボール経験者も多数存在した。その中で特に目立っていたのが、現在の女子プロ界のスター選手、川端友紀(25歳)だった。

 兄は東京ヤクルトスワローズの川端慎吾選手であり、父は少年野球の監督という、野球一家に育った川端。小学生の時から自然と野球を始めるが、中学生になると野球では明確な目標が見つけられず、その想いをソフトボールに切り替えた。

「ソフトボールで頑張って、オリンピックに出場するのが夢でした。そのために毎日頑張って来たんですけど……。ソフトボールがオリンピック種目から外れてしまったときは、本当にショックでした」

 再び夢を失った川端は、周囲とも上手くいかない日々が続き、これまで打ち込んできたソフトボール自体を辞めてしまう。そんなときに出合ったのが、女子プロ野球のトライアウトだった。

「プロが出来ると聞いて、運命的なものを感じてすぐに飛び込みました。野球は小学生のとき以来だったので不安もありましたけど、実際にプレーしてみたら、私は野球が大好きなんだって感じました。ソフトボールでオリンピックに出場する夢は叶わなかったけれど、プロが出来て野球をするようになったお蔭で、全日本のメンバーに選ばれたんです。日の丸のユニフォームを着てワールドカップに出場することができて、本当にうれしかったですね」

川端選手は所属チームだけでなく代表でも欠かせない存在だ



 ワールドカップとは、2年に一度開かれる、女子野球の世界大会である。日本、アメリカ、カナダ、オーストラリアの4カ国で戦っていた世界選手権から始まり、2004年から参加国が増えてワールドカップと名称を変えた。現在の参加国は、前出の4カ国プラス、オランダ、香港、チャイニーズタイペイ、ベネズエラの全8カ国となっている。日本の成績は、第1回準優勝(優勝アメリカ)、第2回準優勝(優勝アメリカ)、第3回から第5回までは3連覇しており、現在世界一女子野球が強い国なのだ。

 プロがなかった時代、野球少女たちが目指す頂点は、日の丸を背負ってワールドカップに出場することだった。そのため、プロリーグが発足してもトライアウトを受けず、クラブチームで野球を続けることを選んだ有力選手も多かった。その中の一人が、中島梨紗(28歳)だ。

「高校1年のときから全日本のメンバーに選んでもらって、そこからずっとワールドカップを目指していたんです。プロが始まった当初は、プロ選手はワールドカップに出場しないというお話だったので、挑戦したい気持ちもありましたけど、クラブチームに残りました」

本当のプロはごく僅か プロの選手としての意識改革が必要


 プロが発足した2010年に開催された、第4回ワールドカップは、まだ手さぐりで作り上げている最中であり、プロ選手は出場しないという話になっていた。これまでワールドカップを目指していた少女たちが、プロに行くか、ワールドカップに賭けるか、二択を迫られたのである。しかし、プロリーグの形が落ち着いた2012年大会からは、プロ選手からも選ばれるようになった。こうして中島は、プロ発足4年目の昨年、リーグに合流した。

「プロを外から見ていたときは、一人ひとりの体力面や技術面がすごいなって思っていました。でも実際中に入ってみると、プロの中にもプロになり切れていない人もいるし、アマの中にもプロ意識が高い人もいて。まだ今は、プロとアマって言うふうに、きっちり分けられないと思うんです」

 女子プロリーグが誕生して5年。がむしゃらに突き進む創世記は終わった。これからは、プロとしてのプレー、プロとしての行動が求められてくる。公式戦で、攻守交代のときに誰よりも早くポジションに就くのは、必ず川端友紀である。炎天下での練習中、一人黙々とランニングを続けていたのは中島だった。トップ選手たちの意識の高さや行動は、プロと呼ぶに相応しいプライドを持っている。

炎天下のグラウンドので汗を流す中島選手



「野球の技術だけでいえば、プロが頂点かもしれないですけど、もっと意識を高く持てるようになると、みんなからあこがれられる存在になって、本当の意味での頂点になれると思うんです。アマチュアでもすごい選手はたくさんいますけど、その人たちがプロに来ていないということは、まだ何かが欠けているということ。もっともっと、意識を変えていかないといけないですね」

 プロリーグが出来て、日本の女子野球は確実に競技人口が増えている。底辺が広がれば広がるほど、頂点は高くそびえなくてはならない。現在の女子プロ野球リーグには、まだまだ伸びしろがあるのだ。

 先日、プロの中でもトップに位置する選手7名(投手:中島梨紗、里綾実 野手:川端友紀、厚ケ瀬美姫、三浦伊織、中村茜、矢野みなみ)が、今年開催されるワールドカップの日本代表メンバーに選ばれた。4連覇が懸かるこの大会は、女子野球の認知度を広げるためにも、とても大切な戦いだ。さらに、開催地は宮崎(9月1日〜7日)。6年ぶりの日本開催なのである。

「4連覇に向けて、合宿も何度かして、チームも形になってきました。実力的には優勝を狙えると思いますが、何があるか分からないスポーツですし、不安要素があると足元をすくわれてしまうので、そういうことがないようにチームを一つにするのが私の仕事だと思っています」

 高校生から日本代表に選ばれ続けてきた中島。4連覇が懸かっていても、気負いはない。プロとアマのトップ選手で構成された侍ジャパンが、世界を相手にどんな戦いを見せてくれるのだろうか。そして、彼女たちのひたむきな姿を見て、未来の女子プロ野球選手を目指す子どもたちが増えることは、間違いないだろう。

PROFILE
赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載中の「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍中。
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