週刊ベースボールONLINE

広島・丸佳浩インタビュー「シーズンの最後まで全力で戦うだけです」

 


23年ぶりの優勝へ、まだ夢をあきらめてはいない。9月2日からの巨人との3連戦では痛い3連敗を喫したが、可能性がある限り一戦一戦に全力を尽くす。その広島を牽引する若きリーダー丸佳浩に優勝への意気込み、好調な打撃について聞いた。
取材・構成=菊池仁志 写真=桜井ひとし、湯浅芳昭、佐藤真一

目の前の試合を勝ちにいく


──シーズンも約20試合を残すのみ。優勝争いも佳境に入りました。今、どのような心境でプレーされていますか。

 あんまり意識はないですね。去年、クライマックスシリーズ(CS)に出られるかっていうときと変わらないというか。僕が一軍で出るようになって、おととしまでは9月に入ったときにはもう消化試合っていう感じだったので、昨年が初めて最後まで緊迫したしびれる試合を経験したシーズンでした。

 初めてだったから先を見るどころではなく、その中で、まずは目の前の試合にチームの力を合わせて全力で臨むことがものすごく大事だと感じました。今年もそんな感じです。相手どうこう、例えばジャイアンツが勝った負けたを気にするのではなく、まずは自分たちがしっかりした野球をすること、そして勝つこと。それが大前提です。

──変わらない一戦必勝の姿勢ですが、ファンの期待がどんどんふくらんでいるのは感じているのでは?

 それはありますね。去年の後半、CS進出争いをしているころからたくさんのお客さんが見に来てくれるようになって、ものすごい力だと思っていました。今年に関しては開幕からその状態ですから、僕たちとしてはすごく感じるものがあります。カープ女子が話題にもなっていますが、ビジターの球場でも僕らの応援席は埋まっているので、そういうところで皆さんの期待を感じますね。

──その期待に応えたいですね。

 この職業をやっている以上はファンの期待に応えたいと思うのは当然です。最高の結果で応えたいと思ってプレーしています。

──その中でも平常心でプレーできるのが丸選手の持ち味です。

 浮き沈みはないですね。負けたら負けたで、まだ試合は続くわけですから、引きずることが一番よくない。チームでも、僕とかキク(菊池涼介)とか、若い選手で盛り上げながらやっているんで、少なくとも落ちることはないですね。

──自身の結果に一喜一憂しないでいられるのはどうしてでしょうか。

 去年は多少あったんですけどね。まあ、今年については目標と言ったら144試合すべてに出ることなんです。去年は140試合だったんで。現時点で全試合に出してもらっているんで、まずはその目標を果たしたいと思っています。だから最後の144試合が終わるまでは必然的に変わらないでいられるというか……。

──144試合戦い抜いた上で、優勝という結果がついてくれば……。

 それが一番、うれしいことです。

──丸選手の優勝への思いを聞かせてください。

 僕は89年生まれですが、91年の最後の優勝は記憶にありません。カープを認識してから、カープが優勝するってイメージもないので、自分たちの手で味わってみたいって思いますね。

──現時点でシーズン最終戦は10月5日の巨人戦で、マツダスタジアムで行われます。

 そのことは日程を見て知っていますけど、先のことを考えても仕方がないので、まずはその日その日の試合に勝つ。それだけです。

「仕方ない」の境地


──9月7日時点で打率.302。昨年は交流戦終盤に打率3割を切って、最終的に.273でした。昨季と今季の違いをどのように分析していますか。

 変えたか、変えなかったか。去年は打てなくなってきたタイミングで、フォームとか考え方とか、いろいろと変えようとしてしまったんです。今年は何試合か「変だな」っていう状況があっても変えない。そういうところだと思っています。

──変えようとしたことが悪影響を招いたのでしょうか。

 ヒットが出ないとき、結果が出ないとき、自分にプレッシャーをかけていたんですよね。自分で自分を追い込んでしまって、変えないといけないと思ったんです。

──それが今季は結果を求めることがなくなった。打席で追求するものが変わったのでしょうか。

 打つべき球をしっかりと打つ、ということです。厳しいコースは簡単に打てるものではないんで。長いシーズン、ずっと試合に出ていたら1打席に1球も打つ球が来ないことだってあるじゃないですか。そこでどういう考え方をするかなんです。今の打席は仕方ないと思って、次は甘い球が来たら1球で仕留めようと、今年はそういう切り替えができています。去年は厳しい球しか来ないなら、その球をしっかりとらえないといけないと思ってしまっていたんで、それが強引な姿勢になってしまったところがあるのかなと思っています。

──その割り切りが7日時点でリーグ1位の84四球につながっているとは言えませんか。

 もともと厳しい球、ピッチャーが良いコースに投げ込んできた球を打つ技術を持っていないんで、そこは割り切りです。我慢しながら甘い球をいこうと思っている結果でしょうか。

──四球を取るという意識は持っていないのでしょうか。

 これまで84四球ですけど、その中にハナから狙って取ったフォアボールは1個もありません。あくまで打ちにいく中で、打つ球が来ないから我慢していたらフォアボールになったというものです、すべてが。

──ファウルで粘れることが四球増に表れていると思えますが、決して当てにいくスイングではありません。

 当てにいくってことは崩されているってことですから、追い込まれるまではそういう打撃はしたくないと思っています。ケースにもよりますけど、追い込まれて厳しい球をファウルで逃げられるのはベストです。でも、甘いカウント、有利なカウントのファウルはいただけない。そこはしっかり仕留めましょうよって話です。

──丸選手の打撃はタイミングの取り方が特徴的です。

 もともとタイミングを取るのがうまくないんです。だから足を上げるのは難しいんですよね。右足を開いておいてスクエアに戻してからピッチャー方向に入っていくんですが、ピッチャーのタイプにもよりますけど、僕の中の一つの目安でタイミングを取っているんです。

──軸足に乗せるという作業が省かれていますから、突っ込んでしまう危険性が高くなる気がします。

 上体が先に行ってしまうときもあります。ただ、そのときに意識すれば直るポイントを把握しているので大丈夫です。

──そのポイントを教えてください。

 言葉にすれば「タイミングを早めに取って、静かに踏み出す」。タイミングが取れてないと右足を「ドン」って着いてしまうんで、そこだけ気をつけています。「静かに」いければ突っ込むことはありません。

──体重移動のときの軸足への意識を教えてください。

 僕は前の足にしか意識がないんです。前の足でタイミングを取るのでそこに意識を集中させています。

──軸足で「粘る」とか「我慢する」という感覚は?

 ないです。その作業も全部、右足ですね。僕にはそれが自然体で、あまり力を入れずにやれば、そういう形になるんです。それでもいろいろ試しながら行き着いた形なんですけどね。

独特のタイミングの取り方で「投手に入っていく」と表現する丸。試行錯誤の末に行き着いた形だ(写真=佐藤真一)



ベストスイングの追求


──今季は主に三番を打ってきましたが、後ろにつなごうとする強い意識を感じます。

 それはないんですけどね。つなごうとかヒットを打とうとかファウルを取ろうとかっていうんじゃない。僕が意識するのは練習でやっている良いスイングをどの打席でも出せるようにするっていうことです。相手もいることなので、できる日もあればできない日もあって、できた日の中にもできた打席とできない打席があります。それを全部の打席でできるように準備をすること。それ以外にはありません。

──延長12回引き分けに終わった7月14日のDeNA戦(マツダ広島)は、四番のエルドレッド選手が6三振を喫する中で、三番を打って5四球を選びました。つなぎの徹底した姿勢を感じたのですが。

 その試合は打つ球がこなくて、それが来るまで我慢して我慢してってやっていたら、それだけのフォアボールになったっていうだけです。

──エルドレッド選手の状態が悪いのが明白な中で、多少、強引になっても自分で決めにいきたい気持ちがわいてきそうですが。

 当然、打ちにはいきますし、自分で決められるならそれに越したことはないですが、打てる球を打つという姿勢は変わりませんね。

──そのように打席で自分のスイングを追求する中で、目標とする、目安とする記録、数字はありますか。

 そういうの、ないです。試合にはいろんな展開がありますから。ホームランを意識していると言っても、0対10で負けている試合で打っても意味がないですよね。試合には打ち合いもあれば、緊迫した投手戦もあって、その中でチームを勝ちに近づけるために自分はどういった結果を残すのかを思いながらやっています。僕にとっては数字を追うのって意味がないんです。

──勝利に近づける働きができたかどうかを顧みながらシーズンを送っているということですね。

 今季はずっとそんな感じです。あとは、去年はヒットが出ればヨシとしているところがあったのですが、今年は何でヒットになったのか、何であの球を打ちにいったのか、そういうところまで振り返りながらやっています。

──追求するところがより深く変わってきています。

 それは去年1年間ずっと使ってもらったから変わったものですね。去年は無我夢中でひたすらにガムシャラにやりました。当然、大事な場面で打てればうれしかったし、達成感もありましたけど、その試合でシーズンが終わるわけじゃない。144試合の中の1試合だと分かったので、今年はそれぞれの試合でいい結果が出せるようにしたいと思っています。そのためにはその日の試合を振り返って、1日1日を整理していかないと長い目で見たときに続いていかないと思いました。

──残りの試合、優勝争いに身を置いて、また新しいものが見えてきそうです。

 終わってみて、そういうものが見えてくればいいですね。ただ、今はまだ振り返りはしません。シーズンの最後まで全力で戦うだけです。

「最後の144試合が終わるまでは必然的に変わらないでいられる」と語る



PROFILE
まる・よしひろ●1989年4月11日生まれ。千葉県出身。177cm80kg。右投左打。千葉経大付高から08年高校生ドラフト3巡目で広島に入団。3年目の10年に一軍初出場を果たし、11年には一軍に定着。13年は主に一番・中堅として140試合に出場し、打率.273の成績を残した。今季は主に三番に座るほか、プロ入り初の四番も経験。野手陣の若手リーダーとしてチームをけん引している。今季成績は122試合出場、打率.302、17本塁打、58打点、20盗塁。
HOT TOPICS

HOT TOPICS

球界の気になる動きを週刊ベースボール編集部がピックアップ。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング