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10月5日、札幌ドームで行われた引退試合。満員札止めの4万1208人のファンが見守る前で、稲葉篤紀が20年間に及んだ野球人生に1つの区切りをつけた。ヤクルトで10年、北海道日本ハムで10年。自身の代名詞にもなった全力疾走で駆け抜けた栄光の日々は、多くのファンの記憶に深く刻まれた。北の大地に愛された背番号41。その万感のフィナーレとなった1日を追った。
構成=松井進作(本誌)
写真=毛受亮介


「五番・ライト、稲葉」

 スターティングメンバーにその名前がコールされると、満員札止めに膨れ上がった札幌ドームが地鳴りのような大歓声に包まれた。

 プロ3年目でレギュラーの座をつかみ、06年の日本一の際に初めてゴールデングラブ賞も獲得した「定位置」でスタートしたこの日の引退試合。楽天松井裕樹の前に3打数無安打で現役最後となるレギュラーシーズンを終えたが、すべてを出し切った充実感あふれる表情に包まれたベテランの姿があった。

「最終打席のセンターフライは自分では抜けたかなと思った当たりだったんですけど、あとで映像で確認したら全然飛んでませんでしたね(苦笑)。でも、あれで引退を決めたことは間違ってなかったなって思いましたし、松井君もキャッチャーのサインに首を振って全球ストレートできてくれた。最後に本当に良いピッチャーと真っ向勝負ができて、うれしかったです」と19歳のルーキー左腕に感謝の言葉を紡いだ。

▲最終打席は左中間寄りの大きなセンターフライ。ヒットこそ生まれなかったが、最後まで全力のスイングで札幌ドームを沸かせた



 試合後の引退セレモニーではイメージカラーの赤いカクテル光線に包まる中、慣れ親しんだ左打席のバッターボックスへ。再び球場内に「五番・ライト、稲葉」のアナウンスが流れると、楽天ファンも含めた4万1208人による万感の稲葉ジャンプ。その光景を自身の瞳に焼きつけるように、ゆっくりと360度見渡した後に深々と頭を下げた。

 続いてチームメートからの10回の胴上げ。その輪の中心にいたのが中田翔。セレモニー序盤から泣きじゃくる弟分を優しい眼差しで見つめ、スピーチでも「中田翔のことをよろしくお願いします」と、ファンの前でこれから先のファイターズを背負って立つ若き主砲へエールを送った。




「僕の中で涙は最後の最後までとっておきたい」と笑顔で締めくくった稲葉。代名詞でもある全力疾走を続けて心身ともに完全燃焼し、駆け抜けた20年間の野球人生。その有終の美を飾るためにも、10月11日から敵地で開幕するクライマックスシリーズを勝ち抜いてもう一度、この道産子ファンの待つ札幌ドームへ─。

 そこで最後に流す涙はさびしさではなく、きっと喜びに満ちあふれた、うれし涙となるはずだ。



引退セレモニースピーチ




 1995年にドラフト3位でヤクルトに入団し、ヤクルト10年、ファイターズ10年、20年という現役生活を送ることができました。これもひとえに皆さんの声援、皆さんの支えがあったからだと思います。ありがとうございました。

 ヤクルト10年間では野村監督、若松監督。ファイターズ10年ではヒルマン監督、梨田監督、栗山監督と5人の監督の下で選手をさせていただきました。勝つ喜び、負ける悔しさ、本当にいろいろな経験をさせていただきましてありがとうございました。

 中でも野村監督はこの夢であるプロ野球という世界に入れていただき、そして野球をゼロから教えていただきました。野球は考えてやるスポーツだ、そういうふうに教えていただき、今日までできたと思います。そして、栗山監督、3年間という短い間でしたが、なかなか調子が出ない僕にいつも声をかけていただきました。昨年は兼任コーチということでいろんな経験をさせていただきました。本当にありがとうございました。

 20年間いろんなコーチの方にも指導していただきました。そして練習を手伝っていただきました裏方さん、体のサポートをしていただきましたトレーナーの皆さん、いろんな面で支えてくれました球団スタッフ、マネジャー、そして用具担当の皆さん、グラウンドキーパーの皆さん、そして共に戦った選手の皆さん、本当に皆さんと一緒に野球がやれて、支えられ、ここまでできたと思います。ありがとうございました。

 僕は全力疾走でここまでやってきました。この全力疾走ができる体に産んでくれた両親、今日まで見守ってくれた家族、この場をお借りしまして挨拶をさせてください。本当に今日までありがとうございました。

 そして一番感謝をしなくてはいけないのが、ファンの皆さんです。ヤクルトでは「必殺仕事人」、ファイターズでは「稲葉ジャンプ」と本当に素晴らしい応援で後押しをしていただきました。そして勇気づけていただきました。これを来年見られないと思うと、とてもさみしい気持ちでいっぱいですが、これは僕の一生の思い出として、胸の中にしまっておきたいと思います。本当にありがとうございました。

 最後になりますが、これからのファイターズ、どうか皆さんの応援でまた勇気づけてあげてください。そして新しい歴史を築いていってください。そして中田翔のことをよろしく申し上げまして、挨拶と代えさせていただきます。

 稲葉篤紀に悔いなき20年間、そして最高の20年間ありがとうございました。(抜粋掲載)

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