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稲葉篤紀と同じ法大出身の後輩であり、現在はファイターズのキャプテンを務める大引啓次。アマチュア時代から背番号41に多大なる影響を受けてきた男が綴る、知られざるエピソードと惜別メッセージ。



「ずっと僕のあこがれの野球選手でした」


 稲葉さんの引退はいまだに実感がないというか……ただただ、寂しいという思いだけです。45歳までバリバリでやってくれるものだと思っていましたから。引退する決意をしたことを知ってからも冗談半分で「引退表明を撤回して、また来年もできるんでしょうね」と言いましたよね。開幕して間もない4月に手術をされて、そのときは来年以降を見据えた手術だと確信していました。だから「もう今年で……」と伝えられたときは悲しくて仕方がなかったです。

 覚悟を正式に表明されたのが9月の上旬。その前、確か8月10日でした。福岡でソフトバンク戦を終えた夜でした。偶然、空港で稲葉さんと2人きりなったときです。台風の影響で飛行機が遅れて空港で出発を待ちながら軽食を食べているときに突然でしたよね。「今年で引退するわ」って。ショックというか、嫌だというか……。まるで子どもが駄々をこねるようにこう返答しましたよね。稲葉さんの固い決意も知らずに「来年もやってくれるということを信じています」と失礼にもお願いしてしまいました。すいませんでした。

 ずっと僕のあこがれでした。ちょうど法大4年のときにファイターズが日本一(06年)へと上り詰めたんです。今でも鮮明に記憶に残っている1シーンがあります。25年ぶりのリーグ優勝を決めたセカンドへの内野安打。同じ大学の後輩として、すごく誇らしかったのを思い出します。初めてお会いできたのはオリックスに入団した1年目。法大の先輩の阿部(真宏)さんと一緒にファイターズとのオープン戦で、ご挨拶をさせてもらったんですよね。それから、いつも「大引、よろしくね」と気さくに接していただいたことは今も忘れません。

 2年前の1月下旬、トレードが決まった日もそうでした。携帯電話に知らない番号から着信があり、留守電を聞いてみたら稲葉さんでした。驚き、連絡をさせていただくと「本当に何も心配することないから」と言っていただきましたよね。ショックで混乱していたんですけど、あの電話で気が楽になりました。

 このファイターズでの2年間は打撃に苦しんでいる稲葉さんを間近で見てきました。ライバルのオリックスにいたころは、あれだけ簡単にヒットを打っていた。そんな人でもこんなにも悩み、もがくんだと驚きました。胸が痛かったです。

 そんな稲葉さんといつの日か、指導者と選手としてまた一緒のフィールドに立てることを楽しみに僕も頑張ります。そして、そのときには1打席限定でもいいので復帰して「代打・稲葉」を見せてください。ふがいない僕たちの代わりに、あのバッティングをまた見せてください。それは僕だけではなく、ファンの皆さんもきっと同じだと思います。

PROFILE
おおびき・けいじ1984年6月29日生まれ。大阪府出身。178cm84kg。右投右打。浪速高、法大を経て2007年に大学生・社会人ドラフト3巡目でオリックスに入団。1年目から遊撃のレギュラーに定着し、12年には選手会長にも就任。13年1月に交換トレードで日本ハムへ電撃移籍。持ち前の堅実な守備とシュアな打撃で新天地でも欠かせない戦力となり、14年からは主将としてチームを支えている。
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