自分の限界を知り、受け入れ引退を決めることは非常につらいことだ。その判断をするのはどういう場面だろうか。実力と年齢を天秤にかけて、そのようなことができるプロ野球選手は、ごく一部ということは誰もが知っている。だが、戦力外を受けた後、しっかり自分の実力と限界を見つめ、次へのステップを踏み出すことができたプロ野球選手もある意味で、引退選手であり、幸せな人生であるはずだ。 191センチのスポーツ店員
神奈川県横浜市都筑区にあるベッドタウン、センター南駅(市営地下鉄)。その駅前に大きなスポーツ店舗「スポーツオーソリティ(SPORTS AUTHORITY=株式会社メガスポーツ)港北ニュータウン店」がある。その中の野球用品売り場に元
DeNA投手の
安斉雄虎が勤務している。昨年9月に引退を決意し、11月からこのスポーツ店に就職した。一昨年までの青いユニフォームから、スポーツ店の赤いユニフォーム(店舗着)に変え、耳にはインカムを付け、どう見ても普通の店員という格好だ。
ただほかの店員と違うのは191センチの身長ということ。会えばすぐにスポーツ選手だったことが分かる。現在は店舗接客が毎日の仕事。月に幾度か野球教室も開催し、野球少年たちとの交流を持っている。話を聞いた日は、連休明け。「毎年の連休はそこまで忙しくないらしいのですが、今年はめちゃくちゃ忙しかったですね」と笑顔で答える姿には充実感が漂っていた。
取材日の午後から、連休中に忙しくて手がかかれなかった、オーダーが掛かっていたファーストミットの修理を行っていた。
「ヒモが切れたから、交換してくれという依頼だったんですが、もう何度も交換していてウエブも痛んでいるので、自分でウエブを作ろうかと思っています」
もちろん、入社して初めての試みだが、補修後もしっかり使ってくれるお客さんだ、ということを知っているからこそ、安斉も「何とかいい状態に」と熱が入る。今では難易度の高い「縫いピー」と呼ばれるスパイクのピッチャーカバーを縫い込む作業もマスターした。
「野球そのものに触れ合っていたい」
2013年のオフ、DeNAから戦力外通告を受けたが、まだ現役で続けられると信じ、トライアウトを受けた。しかし、どこからも声が掛からず独立リーグ・BCリーグの富山に入団。そのオフには前年から行っているアリゾナ州での単身自主トレも行い、そこで
阪神の
岩田稔とともにTRXのトレーニングに取り組んだ。独立リーグでも開幕2戦目の先発マウンドを任された。
「いつかはプロ野球へ返り咲く」。1年前はその気持ちだった・・・
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