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球界インサイドレポート

森脇監督休養に見え隠れする“企業の事情”

 

6月2日、急きょ、開かれた記者会見で、オリックス森脇浩司監督が成績不振を理由に休養を発表。その決断を下すまでには何があったのか。そして、福良淳一監督代行が指揮を執り、チームはどう変わるのだろうか――。
文=喜瀬雅則(産経新聞社)、写真=石橋英生、荒川ユウジ

6月2日の午後1時。オリックスが宿泊するホテルで会見が開かれ、森脇監督が休養を発表。「責任を取らせていただくことを決意し、今朝、瀬戸山球団本部長に伝えました」



反攻のメドだった5割復帰


 目は、充血していた。

 唇を、ぐっとかみしめていた。

 志半ば、無念の思いが、森脇浩司の表情から、にじみ出ていた。

「チームをいい方向に動かしていくには、手遅れになることが一番よくない。私が身を引くことが、一番いい方向だと決めた次第です」

 東京ドームに隣接するオリックスの宿舎ホテル。開幕55試合目のプレーボールを5時間後に控えていた6月2日、森脇はユニホームではなく、黒のスーツ姿で記者会見に臨んでいた。19勝34敗1分け、借金15の不成績の責任を取り、森脇が休養を申し出た――。それが、球団と森脇自身からの説明だった。

 2000年以降、病気療養のケースを除き、シーズン途中で監督が交代、代行監督が後を継いだケースは9件あるが、そのうち4人がオリックス。03年の石毛宏典、08年にコリンズ、12年には岡田彰布、そして今回、またもやチームの不振の理由を、監督に押しつけるという「負の歴史」が繰り返された。

 背景を、時系列で追ってみる。

 開幕17試合を終え、2勝14敗1分けの借金12。そこで4月16日の試合前、本拠地・京セラドームで瀬戸山隆三球団本部長、加藤康幸編成部長らフロント首脳、森脇監督、福良淳一ヘッドコーチを交えての緊急編成会議が行われた。確認された“反攻のメド”は交流戦終了時での「勝率5割復帰」だった。

 その日から6月14日の交流戦最終戦まで50試合。最低でも「31勝19敗」で乗り切れば、そのノルマは達成される。加えて、それだけの期間があれば、昨オフの右肘手術から調整が遅れていたエースの金子千尋をはじめ、故障中だった主力陣も、万全の状態で戻って来る。そこからでも、優勝争いに割って入ることができるという算段だった。

「2カ月で、12の借金を返すこと。それは普通にやればできる」

 瀬戸山球団本部長は、これを選手にも通達。具体的な目標をチーム全体で共有したその日からチームは5連勝。しかし、昨季は7回終了時にリードしていれば67勝2敗という圧倒的な成績を収めた原動力ともいえたリリーフ陣の不調をはじめ、野手陣でも中島裕之トニ・ブランコの補強組が再三の故障。チーム内からも“各駅停車打線”の声が上がったように、昨季リーグ2位の126盗塁の機動力が失われ、スピードにあふれた森脇野球の魅力が消えてしまっていた。

 どうも、かみ合わない……。

 宮内義彦オーナーが視察に訪れた5月22日のロッテ戦(ほっと神戸)での完封負けで借金13と、初めて“開幕17戦の時点”より後退。その2日後の同24日にも、宮内オーナーは京セラドームに姿を見せた。取材は断ったため詳細は不明だが、現状報告を受けた上で自らの提言、本社の見解を伝えたとみるのが妥当だろう。

 その試合後、前田大輔一軍バッテリーコーチを二軍、鈴木郁洋二軍コーチを一軍へ配置転換することを発表。4月19日にも佐藤真一一軍打撃コーチ、下山真二二軍コーチを入れ替えており、わずか1カ月間で2部門の指導者が交代。ここに、オリックスという“企業の事情”が、顕著に表れている。

11季で指揮官7人の理由


 同グループは、2014年3月期決算で、総資産が9兆円超。米ニューヨークでも株式を上場し、世界中の機関投資家らから、常にその業績を精査されている。グループの中で数少ない赤字事業の球団は、赤字幅をできるだけ圧縮することが経営面での必須条件。それでも昨季、久々の優勝争いを展開し、今季はグループを挙げて19年ぶりの優勝を目指す目標を掲げ、総額40億円とも言われた大型補強を敢行。それは、さらなるスポンサーやファンを獲得するための先行投資であり、その投資効率を上げるため、優勝という“高い期待値”を目玉に、京セラドームの年間予約席や広告看板などの猛烈な販促をかけた。

 その効果は、即座に出た。5月3日のソフトバンク戦では、球団主催の京セラドームで3万6154人の「大入り満員」を初めて記録。ところが、優勝争いどころか期待を大きく裏切る低迷に、ファンやスポンサーから「話が違う」「どうなっているんだ」という抗議や反発が相次ぐようになり、本社や球団の営業担当者たちも苦慮。株主やスポンサーに対し“見える形”のテコ入れが必要となり、コーチの入れ替えもその一環だった。こうした「企業の論理」を優先してきた球団の歴史が、近鉄との統合後の11シーズンで、福良監督代行を含め、指揮官7人の“短命政権”が続いている理由でもある。

 森脇も新たに2年契約を結び、監督として3年目を迎えたばかりだった。それでも、本社、球団からの圧力を十分に感じていた。交流戦を前に「18試合、シーズン最後のつもりでやる。事を起こす」と強い決意を語ったのは、これ以上の“後退”が許されないということが分かっていたからだ。会見では「身を引く」という言葉を使ったが、明らかに“詰め腹”を斬らされた形だった。

福良政権で原点回帰へ


会見から約5時間後の巨人戦[東京ドーム]から指揮を執る福良監督代行。機動力野球復活へ、着手し始めている



 監督代行を務める福良は、オリックスの生え抜き。日本ハムの二軍監督時代には、投手から野手に転向した直後の主将・糸井嘉男を育て上げるなど、指導経験も十分だ。「足を止めないようにしたい」と森脇と二人三脚で築いてきた原点でもある「機動力野球」に戻すという福良の決意だった。6月3日の巨人戦(東京ドーム)では、5回一死一塁で一走・駿太と八番・伊藤光でヒットエンドランをかけ、同点の9回一死一塁には安達了一が二盗。いずれも得点にはつながらなかったが「どんどん攻めていくしかない。守りに入っても、どうしようもないから」。

 同5日の中日戦(ナゴヤ)では、1点リードの7回から不調の守護神・平野佳寿を投入。同3日の巨人戦(東京ドーム)で9回サヨナラ負けを喫すると、福良は翌4日、平野本人に中継ぎへの配置転換を通達しており、9回には2年連続最優秀中継ぎのタイトルを獲得している佐藤達也を投入、監督代行としての初勝利を飾るなど、低迷打破へ向け、大胆な改革に福良は着手している。

 ただ、開幕直後から故障者が続出した上、補強の目玉だった中島、小谷野栄一、ブランコ、ブライアン・バリントンの4人は、森脇休養の発表時はいずれも2軍調整中であった。今回の不成績は、フロント側の“見込み違い”に起因するところも大きい。

 新体制で今後の反攻を期するのはもちろんだが、今回の騒動を通して監督、コーチ、選手の評価法、本社との意思疎通や命令系統など、球団のマネジメントの部分で浮き彫りになった問題もあるはずだ。『監督休養』を“トカゲのしっぽ切り”に終わらせないためにも、繰り返されたお家騒動からの教訓を、球団側はもう一度、見直すべきだろう。
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