振ることの大事さを痛感した高校時代の苦い経験
感じるままに――。プロ1年目に挑んでいる期待のドライチ・
吉田正尚が、もっとも大事にしていることだ。代名詞となりつつある“フルスイング”は、その一端に過ぎない。
オープン戦終盤で一軍昇格を果たし、
阪神・
藤川球児から京セラドームの右翼5階席への特大弾を放って開幕スタメンを手にしたが、「まだ自信はない」と語る背番号34。だが、そう話す目に“迷い”はなく、しっかり前を見る。
「まだまだスタートライン。今は自分のスイングをするだけです」
力強く振っていく。そう表現する“自分のスイング”を開幕から続けて新人タイ記録となる6試合連続安打をマーク。好成績をもたらしているそのスイングは「素振りでも本数より質。投手をイメージしたり、球種、コースを想定して振っているんです」。野球を始めた小学1年生から培い、そして貫いてきた。
「自分は昔から体が小さかったので、まずは力強く振ること。その中で投手が投げるボールとのすり合わせ、技術的な話になってくる。それに、どうせ1ストライクを与えるなら、振ったほうが絶対に良い。そこで、何を感じるかだと思っています」
振ることの大事さを痛感させられたのは高校3年の夏だという。敦賀気比高(福井)で1年夏から四番を務め、同夏、2年春と甲子園に出場。だが、3年夏は県大会の準決勝で敗戦。その経験が生きている。
「結果を気にし過ぎていたからバットが振れなかった。やっぱり、まずは振ることが大事だなと。そうしないと何も感じられないですからね」
開幕から10試合を終え、外角中心の配球も増えてきたが、「凡打でもひっかけずに逆方向に打てている。もう少し押し込めたらライナー気味の強い打球が打てるはず」と、フルスイングはそのままに、対応力を磨いている。期待される本塁打に対しても「いずれは多く打ちたい。でも、1年目は狙うよりも結果的に本塁打になれば。『(本塁打が)出た』という感じが良いと思っています」と、あくまで貫くのは自然体だ。
その先に見据えるのは、自らが掲げる“一流”の打者。「打率も本塁打も上位。それが一流。その域に達するためにも課題を見つける1年にしたい。チームには迷惑をかけるかもしれないけど、今は自分のプレーをしていくだけ。プロの世界では、すべてが初めてのことなので、その中で何を感じて、どう自分のものにしていくかが勝負。とにかく何も感じない日はないようにしていきたいです」。
身長173センチ。フルスイングを身上とする“小さな強打者”が1打席1打席で得た感覚を大事にし、一流の打者への階段を上り始めている。
文=鶴田成秀(オリックス担当)、写真=BBM