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王氏と重なる境遇…四球連続記録の裏で続く柳田悠岐の苦闘

4月19日試合終了時点で.488と高い出塁率を記録しているが、打率は.267と停滞している(写真=BBM)

 

4番を打つ内川聖一も驚く厳しい柳田攻め


 さかのぼっていけば、楽天との開幕戦からその傾向はハッキリと出ていた。3月25日、冷え込んだ仙台での薄暮ゲーム。工藤ホークス2年連続の黒星発進となった試合で、柳田悠岐の打席成績は第1打席から四球、四球、投ゴロ、空振り三振で、2打数無安打だった。翌日は1敬遠を含む3四球。その翌日も1四球…。

 その後、連続試合四球のパ・リーグ記録を塗り替え、さらに1970年に王貞治(巨人)が持つ日本記録18試合連続に並ぶとは、この頃、誰も知るよしもなかったが、他球団のマークは予想以上のものだった。

 工藤公康監督も「長打を打たれるなら四球でいい、くらいの攻め。調子がいいときは押し出しでもいいというくらい」と頭を悩ませた。本人は「甘い球をミスショットせずにしっかり仕留められるか」と省みるしかなかったが、ネクストバッターズサークルで見ている4番内川聖一も「やっぱり厳しい。内、内ときて、外から落としたり。よっぽど去年のインパクトが強かったということ。フラストレーションがたまると思う」と思いやるほどだった。

 昨季トリプルスリーを達成した不動の3番打者。豪快アーチあり、盗塁ありの万能打者が、12球団最強とも言われる打線のキーマンであることに、疑義を挟む余地はない。捕手はまず内角に構えてボール気味、外角に構えてまたボール気味。まともな勝負はほとんどない。

 昨季2位だった日本ハムとの開幕3カード目に、ある記録が残る。この3連戦で柳田は計4三振を喫したが、うち3つまでが見逃し。昨季101三振中、見逃しが29個と、際どいコースの見極め意識をうかがわせる柳田ながら、この日本ハム3連戦では続けて微妙な判定に泣かされた格好だった。そしてこの3連戦を終えた時点で、打率は.160まで低下。「ボール球をしっかり見送って、甘い球を仕留める」というスタイルから逸脱し、ゾーンを広げて手を出さざるを得なくなった事情も見え隠れする。

 結局、続くカードの2戦目まで、柳田は5試合連続三振を喫した。昨年は各球団が四球OKの姿勢を鮮明にしていた、ペナントレース佳境の9月に6試合連続があったが、同様の状況が4月に起きていたことになる。連続試合三振は止まっても、そして今度はチームが1分けを挟んで3連敗。鉄板のV候補が借金3という状況に至って、連続試合四球を継続する柳田は「あそこで俺が打ってれば…」と自分を責めることが多くなった。他球団が狙っていた負のスパイラルに、柳田自身も、チームもあった。

 内角ボール気味一辺倒という極端な攻めもあり、藤井康雄打撃コーチは「ちょっと引っ張る意識が強すぎる」と打撃の崩れを案じていた。もっとも、そのまま崩れていくような柳田でも、ホークス打線でもない。打線の奮起で連敗を断ち切った鹿児島でのオリックス戦、柳田自身は無安打ながら2四球。その結果を「チームが勝てば良かったと思える」と前向きに捉えられるようになった。もちろん、メンタル以前の技術的な微調整もプラス要素。藤井コーチは「あいつも勉強しているよ。自分の映像を見たりして、しっかり修正している」と見取っていた。

 当初、工藤監督は「あんな攻めを1年間は続けられない。種をまいている段階。まだ投手が元気だから」と見ていたものの、同様の攻めが収まる気配はない。1974年にシーズン日本記録158四球を得たソフトバンク・王会長は、当時を「前の年(73年)が三冠王だから、(投手が)攻めた結果の四球はあまりなかった。走者が得点圏だったら四球」と振り返る。

「打者はどうしたって後手だから。我慢、我慢」

 74年に2年連続の三冠王に輝いておいて、そう言った。忍耐と反撃。柳田にとっては、それを繰り返し、戦い抜く2016年シーズンになりそうだ。
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