オープン戦から飛躍的な成長を遂げた守備
5月11日。思いもよらぬ早さで1軍昇格の時は訪れた。前夜に告げられた
平沢大河は「こんなに早く呼ばれるとは思ってなかった。うれしいし、プレッシャーと思わずに思い切ってやりたい」と素直に喜んだ。イースタン・リーグでは31試合で打率2割9分4厘、4本塁打、22打点と高卒1年目のルーキーとは思えない数字をたたき出しての抜てきだった。
敵地福岡での
ソフトバンク3連戦のまっただ中、カード2戦目での合流だった。
伊東勤監督は成績だけでなく「首位との試合の雰囲気を体験することも必要」と説明した。加えて、前日の試合ではR.
バンデンハークに6回1死まで1人の走者も出せない展開で、5回の攻撃を終えた時に平沢を呼ぶことをひらめいたという。
「このチームは競争を掲げた。だけど、それぞれが安心しているというのもある」。野手陣に刺激を与えられる存在と踏んだ。
楽天とドラフト1位競合の末に
ロッテ入り。春季キャンプからオープン戦終盤まで1軍で過ごしたが、攻守両面で課題は浮き彫りだった。特に、守備はプロのスピードについていけていなかった。そのことを如実に感じさせたのは、3月8日の
日本ハム戦で
陽岱鋼の打球を処理した時だ。何の変哲もないゴロだったが、余裕を持ちすぎたか一塁への送球が間に合わない。仙台育英高時代はアウトにできていた感覚だったのだろう。「思ったよりランナーが進んでいた」と率直に口にした。
2軍に合流後のイースタン・リーグでも序盤はミスを重ねた。11試合で4失策。ここからの適応が非凡なところで、その後の20試合では2失策と向上を見せた。「守備が安定すれば、打撃のことだけ考えればいい。守備は波がないですから」と自信をにじませた。
5月14日、本拠地QVCマリンフィールドでの楽天戦で初先発の機会をつかむと、その守備で魅せた。まずは三回2死一、二塁。
嶋基宏の二遊間を破りそうな打球を滑り込みながら捕球すると、素早く二塁ベースカバーに入ったナバーロにトスして一走を封殺する。五回には俊足の
聖澤諒の高く弾む打球に猛然とチャージし、一塁へ送球して際どくアウトに。オープン戦とは見違える上達ぶりで、伊東監督も「いいプレーをしてくれた」と認めた。
松山秀明内野守備走塁コーチも、高卒ルーキーとしての評価と前置きした上で「球際の強さがある。普通の選手ならミスしているし、大事な場面でいいプレーはなかなかできない」と認めた。
打撃では右の壁をつくり、早く体が開かないようにと取り組んできた。以前は「遠くに飛ばすことしか考えていなかった」というアプローチも変わった。プロ入り当初は構えたところからグリップを引き上げてスイングしていたが、今は最初から高く構え、トップをつくるような格好だ。
プロの投球に対応するため、準備を早くする意識だという。「タイミングがずれたりするので、シンプルに。少し飛びにくいけど、練習すれば飛ぶようになると思います」と手応えをつかみつつある。
一方で1軍レベルの投球を確実に捉えるところまでは達していない。5月12日、プロ初打席で対峙したのはソフトバンクの東浜だった。8球目の外角146キロを空振り三振。思い切りよくバットを振る中でファウルが4球あり、よく粘ったとも言えるが、平沢の感覚は「前に飛ばなかっただけ」というもの。確かに、甘いコースのツーシームを自分のタイミングでミートできなかった球もあった。4試合で4打席に立ち、3つの空振り三振と快音はない。好機で2度、代打
井口資仁を送られる場面もあり「あそこで打たせてもらえる打者に」と意欲をかき立てた。
現時点では、1軍に欠かせない戦力とは言えない。平沢も「いつまでいられるかわからないけど、経験を積みたい」と現実を直視している。技術の習得と平行して体づくりに励む中で、体重が減りつつある点も悩みどころ。ただ、オープン戦で突きつけられた課題を短い期間で修正した大器だ。1軍のプレーを肌で感じ、足りないものを身につける。そのサイクルを乗り越えていけば、一回りも二回りも大きくなった姿を見せてくれるに違いない。