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SB工藤監督が使いたくなる男 城所龍磨13年目の躍進

高校の先輩でもある松田宣浩とお立ち台に上がった城所龍磨(左)。今季はここまで打率.375、5本塁打、14打点とキャリアハイを達成しそうな勢いだ(写真=BBM)

 

契約があるどうか不安だった昨年オフ


 場内のざわめきには、期待より値踏みの色がにじんでいた。5月18日の日本ハム戦は1点リードの7回1死二、三塁の攻撃。代走で出場した福田秀平に、この試合初打席は与えられず、代わりに代打・城所龍磨が告げられた。

「球場の皆さんも、まさか僕が代打とは思わなかったと思う。大丈夫か!?と思われたはずですけど、チャンスだと思って」

 井口和朋の低めスライダーについていくと、打球は右中間スタンドへ。「あっ、いってもうた、と。やってもうた、という感じでした」。2007年8月19日の楽天戦以来、実に3195日ぶりのプロ2号は、本拠地初アーチ。岐阜・中京高の2年先輩・松田宣浩に促され、勢い任せに繰り出した「熱男」のポーズで、13年目の躍進がいよいよ幕を開けたと言えた。

 走攻守3拍子そろった外野手と期待され、ドラフト2位で2004年にダイエー入りした際に、オリックスへFA移籍した村松有人(現ソフトバンク3軍外野守備走塁コーチ)の背番号23を与えられた。

 もっとも、打撃面では春季キャンプで時折、爆発的な当たりっぷりを見せる以外には見せ場を作れず、やがて代走・守備要員に。秋山幸二前監督のもと、試合終盤のカードとして1軍定着したものの、工藤公康監督が就任した昨季は、出場わずか1試合に終わった。春季キャンプ中の死球で左腕を骨折。8月の初出場で三盗を試みた際、左肩を脱臼し、再び戦列に戻ることはなかった。

「ケガして、契約があるか不安だった」というオフ、500万円ダウンの年俸1900万円(推定)で感謝のサイン。「2016年がラストのつもりで、と思って。西岡(阪神)さんにも言われて」。2011年から西岡剛のもと自主トレを行う。今年1月、西岡が伴ったトレーナーから、トレーニングの見直しを促され決意した。

 過去3年、志向した「ボディービルダーのような筋肥大」から、持ち前の「スピード」へ。吐くまで瞬発系を磨いた。体重は昨季81キロから75キロに。「6キロ減った割には強い打球が飛んでいる」と言うが「パワーってスピードかける筋量なんで」と自分の中で説明はついている。

「早く戻ってこい」「おはらいにいってこい」…昨季、城所が故障するたび、工藤監督は声をかけていた。開幕前に骨折離脱した際、代走・守備要員の確保に頭を抱え、それで内野手・牧原大成の外野兼務を推し進めた経緯もある。故障を乗り越えた城所を今季、1軍に置くうち、野球への接し方に共感している部分があった。

「休日も出てきてトレーニングしたり。そういう努力も報われた」「野球に向き合う姿勢がいい」。スーパーサブの枠に落ち着かせることなく、打撃への期待も言葉にして伝えた。「代打もあるよ」と。「そう言ったときの、彼の顔が初々しいというか。気持ちがこもった打席が多くて、いいなと思って」。積極的に使いたくなる理由だった。

 当初は打線のテコ入れ的な意味合いが強かった城所のスタメン出場機会は増えていく。9年ぶりだったホームランの数はあれよあれよと増加。6月12日の巨人戦では2打席連発という事態に至る。藤井康雄打撃コーチは驚きながらも「もともとそういう力はある」と言った。「今まではどうしても当てにいってしまうところがあったけど、今は懐を深く、自分のポイントまで呼び込んで打てている」。

 城所の適性を見て、打撃コーチ陣は「最初から強く振れるのが持ち味」と口酸っぱく促してもいる。トレーニングの成果。積極起用。必ずしも控えに甘んじないモチベーションの向上。そして思い切り。これらが絡み合って、急激な脱皮が進んだ。昨季代走で脱臼した姿が象徴するように、これまで気合が気負いに変わり、空転しがちだったのが、今は歯車がかみ合っている。

 先輩松田は城所の活躍が誇らしく、打てば目立つ後輩はいい「イジり」の対象でもある。2打席連発の試合は、梅雨の晴れ間が一転して雨の日で「だから雨降るんや。大雨やぞ」と試合後の囲み取材を受ける城所に大声をかけた。チーム随一の肉体派D.サファテは「キドコロ、ドーピング」とニヤリ。こうした場面は、それほどの覚醒ぶりで、なおかつ、それを周囲が好意をもって受け止めている証左でもある。
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