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田中大貴のMonthly Column

田中大貴コラム 『松坂世代』あの夏から21年目の延長戦 「東出輝裕は相手の気持ちが分かる人間ではなく、相手の気持ちを分かろうとする人間」

 

兵庫・小野高、慶大で活躍し、東京六大学リーグ戦では早大・和田毅(ソフトバンク)と真剣勝負を演じた元フジテレビアナウンサーで現スポーツアンカーの田中大貴は、1980年生まれの「松坂世代」の1人。そんな野球人・田中が、同年代の選手たちをプロ野球現場の最前線で取材した至極のエピソードを、コラムにして綴る連載第13回です。

敦賀気比高ではエースとしてマウンドに上がり、夏の甲子園後に行われたAAAアジア選手権では遊撃を守って大会ベストナインを獲得した


テレビ越しのインパクト


「俺、悩んでる子らの話、もっと聞いてあげたいと思うねん。聞きたくて仕方ないねん」

 2019年の春季キャンプ、晴天の空の下、柔和に話す東出輝裕を見て、あらためて魅力的な男だと思いました。

 いまから20年前。

 神宮球場で東京六大学野球とプロ野球の2試合が一日に行われる「プロ併用日」と呼ばれる、ある日のことです。神宮の杜でカープのユニフォームを身にまとった東出を見て、当時、大学生だった僕は、彼がとてつもなく遠い存在に思えて仕方がありませんでした。入団1年目から一軍に帯同し、10代のころからプロの世界で活躍を続ける東出。高卒新人野手として、まさに松坂世代の先頭を走っていました。

 忘れもしない97年の夏の甲子園。東京の名門・堀越高との初戦で登場した敦賀気比高で決勝点を奪い取ったのは、2年生ながら二盗、三盗を鮮やかに決めた東出のスピードでした。初戦の勢いそのままに、ベスト8まで進む快進撃。あの脚力はまだ甲子園を経験していなかった当時の松坂世代の面々に、テレビ越しながら大きなインパクトを与えました。

 そして、3年生となって迎えた翌98年。東出は一番打者、投手兼内野手、そしてキャプテンと一人で何役もこなし、甲子園に挑みましたが、春はスター選手がそろうPL学園高に、夏は西東京の桜美林高の前に惜しくも敗退してしまいます。この世代は横浜高の松坂大輔、東福岡高の村田修一、鹿児島実高の杉内俊哉ら、高校時代からその名を全国に轟(とどろ)かせ、のちにプロの世界に進んでいく選手たちが多いわけですが、もう1つ、2つ勝ち上がっていれば、間違いなく“東出輝裕”の四文字も高校野球界を席巻していたと思います。

 しかし、彼の持つ野球センス、才能、驚異のスピードはすぐさまプロの世界でも証明されました。類まれなる素質を発揮し、広島東洋カープの・・・

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