週刊ベースボールONLINE

2019「ドラフトBIG3」

森下暢仁(明大) 153キロ右腕。正真正銘の「即戦力」

 

2019年ドラフトは、3投手が中心に回っていくと言われている。高校生2人と大学生1人。12球団同時入札である1位指名で、この3選手に集中するのでは? と予想されている。「BIG3」の球歴とその魅力を探っていく。
写真・文=岡本朋祐、写真=田中慎一郎 2019ドラフト候補選手名鑑号より転載


 プロ野球シーズンとは、半年に及ぶ長丁場である。好調を維持するのは難しい。逆に言えば、コンディションが良い状態でマウンドに上がる場面のほうが、少ないと言われる。つまり、一流選手にこそ「悪いなりに」が求められる。

 今秋のリーグ戦開幕日。明大の主将・森下暢仁に「調整能力」が試される機会がめぐってきた。今春のリーグ戦を5季ぶりに制した明大は、東大との開幕ゲームを控えていた。通常とは流れが大きく異なる。打撃練習後に開会式が行われるためもう一度、体を作り直さないといけない。約15分のセレモニーを終えてからシートノックと、バタバタの状況を経てプレーボールを迎える。主将の森下にはさらに大役が控えていた。前季優勝校の主将が、選手宣誓を務める習わしがあるのだ。

 数日前から、気が気でなかった。試合前、トレーナーによる施術中も「呪文を唱えているようだった」とチーム関係者は明かす。善波達也監督は、森下をリラックスさせるために「2回、止まっていいよ!」と送り出している。

「宣誓! 大正14年に始まったこの歴史ある東京六大学野球は昭和、平成の時を越え……」

 完全に文言が飛んでしまった。12秒に及ぶ沈黙……。神宮のスタンドから「頑張れ!」との声を受けて、冷静さを取り戻した。気を取り直して、森下は再び、マイクの前で堂々と話し始めている。

「令和最初の秋季リーグ戦の幕を開けます。私たち東京六大学野球選手は、その歴史の重みとプライドを胸に、支え合ってくれた仲間と、子どもたちの見本となるようなプレーをするとともに、来年の東京オリンピック、また6年後の東京六大学100周年に向け、大いなる未来へ、熱く、強い戦いをすることを誓います。令和元年9月14日。選手代表、明治大学野球部主将・森下暢仁」

 予期せぬ“インタバル”を含めて65秒の熱きメッセージで、秋の戦いの火ぶたが切られた。森下はセレモニー終了から約30分後の東大1回戦で先発。いきなり初回に2つの死球を与えると、4回には先制アーチを浴びる。6回に勝ち越したものの、8回裏に追いつかれる嫌な展開。2対2のまま延長に入り、連盟規定の引き分け直前、明大は12回表に2点を勝ち越し。森下はその裏の東大の攻撃を封じ154球、2失点完投で逃げ切った。11回にはこの日最速タイの152キロを計測し計15奪三振。コンディションとしては、最も難しかった開幕試合の“入り”を、結果的にエースが救った。

「心の安定」が飛躍の要因


 試合後、ユーモアたっぷりに語った。3年生までの森下であったらまず、考えられない発言が飛び出したのである。以前なら即刻で「関係ありません」との模範解答が想定されたが「選手宣誓があり、『入り』が難しかったのでは?」と質問すると間髪を入れずに「あの宣誓が(投球に)響いていることはなくはない」と、まさかの? 報道陣を笑わせたのである。もちろん、冗談。追い打ちをかける別の報道陣から「実際はどうだったんですか?」と再度確認され「関係ないです!」と軌道修正している。

 言い訳はしない。むしろ、闘志前面で挑んできた相手ナインを「ベンチの雰囲気も東大のほうが上だった」と称え、「このままでは勝てない」と危機感を口にした。三塁側ロッカールームでの試合後ミーティングでは「部員から選ばれているメンバー(25人)としての自覚を持とう」と、この開幕試合は慣れないシチュエーションだったとはいえ、準備の大切さを再確認したという。

 どんな状況であれ、しっかりとゲームメークできたのは、最終学年の成長の“証”だ。広島苑田聡彦スカウト統括部長は、神宮ネット裏でいつも視察する“指定席”で言った。

「今日は決して、調子が良いとは言えませんでした。でも・・・

この続きはプレミアムサービス
登録でご覧になれます。

まずは体験!登録後7日間無料

登録すると、2万本以上のすべての特集・インタビュー・コラムが読み放題となります。

HOT TOPICS

HOT TOPICS

球界の気になる動きを週刊ベースボール編集部がピックアップ。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング