新型コロナウイルス感染拡大の影響で日常が大きく変わった。当局から不要不急の外出自粛が要請され、当然、野球界も試合を行うことができずに大混乱に陥っている。激変した日常で野球を心から愛する“野球者”は何を思う――。コラムニストのえのきどいちろう氏とベースボールライターの石田雄太氏が大いに語り合った。 取材=佐藤正行 写真=BBM 新型コロナウイルス感染拡大のため、無観客で行われたオープン戦(写真は2月29日、日本ハム対オリックス=札幌ドーム)
そこに観客がいないと競技として小さくなる
石田 僕は日本の各球団のキャンプ取材を終えた2月20日過ぎに、アメリカへ取材に行ったんです。すでに日本でもダイヤモンドプリンセス号のニュースはありましたが、いまほど大ごとになってない中で渡米。アメリカで日本が大変なことになっているという情報をネットで見ながら2週間ほど過ごした。それで日本に帰ってきたら今度はMLBがキャンプ中断、開幕延期だと。えーって。個人的には騒動をすり抜けるように日本とアメリカの両方で取材して、帰国後は、原稿を書かなければいけないので、しばらく閉じこもっていたら、日本も開幕が延期に次ぐ延期。最近はさすがにやることがなくなってきちゃったけど(苦笑)。
えのきど どこかで足止め食らったりしなくてよかったです。
石田 MLBは今シーズンの開催自体をあきらめる雰囲気なんですよ。比較的、感染者の少ないアリゾナやフロリダに全30球団を集めて無観客で公式戦を行うという話もありました。日本でいうなら、東京や大阪を離れて宮崎や沖縄のキャンプ地の球場で試合をするような話です。でも、結局、全員を一箇所に集めるリスクはある。特にニューヨークの状況を考えると、
ヤンキースやメッツが、選手だけキャンプ地で試合をするのを選手会が許すとは思えない。
えのきど ニューヨーク州がすご過ぎますよね。現地在住の友達とスカイプで話していても、悲鳴が聞こえてきます。ちょっと心が病んでいるもの。ホントにきつい感じです。東京も他人事じゃない。1年後といってもオリンピックもできないですよね。
石田 なまじ延期にしちゃったから、いろんなものを留め置かなければいけない。その費用も莫大にかかるわけですからね。
えのきど 僕はこのコロナ騒動の間、雑誌の連載の仕事は続けているんですけど、それでも時間を持て余し過ぎるから頼まれてもいない本を一冊書いちゃおうと思って、書き溜めています。売り込み先は後で考えればいいじゃんって(笑)。考えたらライターって、在宅勤務の最たるものじゃないですか。すでに取材しているストックはあるし、ここで書き下ろしちゃうのも手だなあって思って。そしたら、いまのこの時間もムダじゃない。不要不急の外出自粛要請も締め切り前の缶詰だととらえて落ち着いて働けるから、これはこれでいいのかもしれないって。
石田 ストレスはありますよね。
えのきど その中でオープン戦をやっていたときにHBCラジオの中継で、無観客試合なんだけどベイスターズ戦の解説を頼まれて現場に入ったことがあったんです。
石田 感じるものはありましたか。
えのきど 意外と面白いんですよ。もう一つ再認識させられたのは、野球の本質において観客の存在はものすごく大きいんですよ。応援して何になる、お前個人の営為なんてチームの勝ち負けと関係ねえよっていう論法があるじゃないですか。でも、プロスポーツの興行において観客の存在って不可欠だと思いました。そこに観客がいないと競技として小さくなっちゃうんです。人に見せるためにやるところを見せないで道場でやっている感じ。同じ野球なのに、質が変わるんですよ。どういえばいいでしょうかねえ・・・
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