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長谷川晶一 密着ドキュメント

第四回 「常にチャンス&ピンチの思い」重み増す復帰後3連勝の石川雅規の存在/41歳左腕の2021年【月イチ連載】

 

今年でプロ20年目を迎えたヤクルト石川雅規。41歳となったが、常に進化を追い求める姿勢は変わらない。昨年まで積み上げた白星は173。200勝も大きなモチベーションだ。歩みを止めない“小さな大エース”の2021年。ヤクルトを愛するノンフィクションライターの長谷川晶一氏が背番号19に密着する。

神宮のマウンドに石川雅規が帰ってきた!


6月4日の西武戦(神宮)で今季初勝利をマークした


 コンディションは万全だった。折れそうになる心も、自らを鼓舞しつつ、ここまで気持ちを切らさずにやってきた。「チャンスさえもらえれば、必ず結果を出してみせる」という思いを抱きつつ、一方では「このまま二度とチャンスを与えられることはないのではないか?」と不安に押し潰されそうにもなった。それでも、久しぶりのチャンスが石川雅規にもたらされた。6月4日、雨中の神宮球場だった。

「いつ、一軍に呼ばれてもいいように準備はしてきました。6月4日の先発を告げられたときには、“よっしゃ、来たぜ!”という思いでした。気負いはなかったと思うけど、緊張はありましたね。でも、緊張感がないといいパフォーマンスは発揮できないと思うので、“ど真ん中に投げても、打ち取れればそれでいいんだ”ってプラス思考でこの日を迎えました」

 相手は「山賊打線」で名高い、埼玉西武ライオンズだ。「自分のできることを一つずつ丁寧にやること」、そして「ランナーをためた上での長打に警戒すること」、そんなことを意識しながら、断続的に雨が降り続けるマウンドに上がった。久しぶりの神宮球場のマウンド。これまでとは違う感慨があった。

「プロ入り以来初めて、開幕ローテーションから外れて、これまで経験したことのない思いを抱きました。一軍のマウンドで投げられることのありがたさ。一軍の試合で勝つことの難しさ。そんなことをあらためて感じたマウンドでした」

 この日の石川は絶好調だった。ストライク先行で西武打線につけ入る隙を与えない。140キロに満たない球速ながら、「山賊たち」は振り遅れたり、詰まったり、凡打の山を築き続けた。一方のヤクルト打線は初回に1点を奪うと、2回には打者一巡の猛攻で5点。さらに3回にも4点を奪って、石川に十分すぎる援護点をプレゼントした。

「点数を取ってもらえると、やっぱりうれしいですよ。ただ、序盤に点数をもらうと、その点数を守るために意外と打たれることも多いんです。でも、この日はずっと攻めのピッチングができたのがよかったと思います。3回表にスパンジェンバーグ選手にホームランは打たれたけど、インコースのシュートを上手に打たれたので、そこは切り替えやすかったです。点数はたくさんもらったけど、ずっと攻めのピッチングができました。守りに行っていいことなんて、何もないですから」

「今までで一番嬉しい勝利」の理由


 試合は5回裏途中、39分間の中断後、降雨コールドゲームとなった。この瞬間、石川の今季初勝利、通算174勝目が決まった。

「僕としてはまだまだ投げるつもりで、中断中も気を抜くことなく準備していました。でも、審判が出てきてゲームセットを告げた瞬間は脱力しましたね(笑)。今までで一番嬉しい勝利だったかもしれないです」

 プロ初勝利でもなく、通算100勝目でも、150勝目でもなく、この174勝目が石川にとって「今までで一番嬉しい勝利」となった。その理由を問うまでもない。プロ20年目にして、これまで経験したことのない苦しい日々を過ごしてきたからだ。石川は言う。

「この一勝は、単なる一勝という感じがしないんです。僕が次のステップに向かうための一歩どころか、二歩も、三歩も先に進むための後押しとなるような一勝だと感じました。チームメイトたちが“石川さんに勝利を”という思いでいたこともわかっていたし、自宅に戻ってから泣きそうになるぐらい嬉しい一勝だったんです」

 これで、プロ1年目から20年連続勝利となった。これは大卒選手としては史上初となる偉業だった。石川は帰ってきた。神宮のマウンドに帰ってきた。僕らの前に、本当に帰ってきたのだ。

6月11日のソフトバンク戦(PayPayドーム)では2勝目を挙げた


 翌週11日の対福岡ソフトバンクホークス戦でも石川は好投を見せた。6回を無失点で切り抜け、後続のリリーフ陣も力投を続け、ソフトバンク打線を完封。見事に1対0で勝利する。これで、通算175勝目。石川の声も弾んでいた。

「1点差のまま、6回でマウンドを降りた後もベンチでは冷静に試合を見ていました。勝手な思い込みなんですけど、“絶対に大丈夫”という思いでしたね。僕の後を受けた大西(広樹)がピンチを作ったけど、その後の梅野(雄吾)、清水(昇)、マクガフが完璧に抑えました。ああいう試合で若い投手がみんなで頑張った。これは必ず成長につながると思います。自分の勝利も嬉しいけど、チームにとって、みんなにとっても、すごく大きなゲームとなりましたね」

 投げたいけど、なかなかチャンスをもらえない……。それは石川にとって、初めて経験する日々だった。しかし、ようやく手にしたチャンスを見事につかんだ。6月4日の西武戦、翌週11日のソフトバンク戦、さらにペナントレースが再開した18日の対中日ドラゴンズ戦でも石川は勝利投手となった。復帰後すぐに3連勝。これこそ、大ベテランの意地と誇りと、実力だった。

いまだ続く、「チャンス&ピンチ」の日々


石川の一軍復帰後3試合すべてで本塁打を放っている村上(写真は18日中日戦)


 復帰後の3試合において、若き四番・村上宗隆はいずれもホームランを放っている。41歳の石川にとって、21歳の村上の存在はどのように映っているのだろうか?

「ムネのホームランはチームに勢いを与えるし、ソフトバンク戦では決勝点にもなりました。まだ若いのにチームを背負っているし、完全にチームの中心選手です。その存在感は日に日に大きくなっている気がしますね。やはり、青木(宣親)の存在がとても大きいんだと思います。メンタル面、トレーニング面、技術面、いずれも青木からいい影響を受けていると思います。本人も向上心もあるし素直なので、まだまだ末恐ろしいです」

 18日の対中日戦で印象深いシーンがあった。6回表、ビシエドのサードゴロを村上が悪送球し、出塁を許してしまった場面だ。かつて石川は「味方がエラーしたときこそ、投手は絶対に抑えなければいけないんです」と言っていた。石川にこの場面を尋ねた。

「ムネが捕球したのを見て、“よし、アウトだ”と背中を向けたら、ファーストのオスナがポロッとボールをこぼしたのが見えました。一瞬、“うわっ!”ってなったけど、野球にはエラーがつきものですから、“ここからきちんと抑えなくちゃ”というのが、あの瞬間の気持ちです。同時に、“ここはゲッツーでベンチに戻ろう”と意識しました」

 その言葉通り、続く中日の五番・堂上直倫をセカンドゴロに打ち取り、見事にダブルプレーでこの場面を切り抜けた。石川の言葉を聞こう。

「まさに狙い通りでしたね。本当は“もういっちょ、サードに行け”という思いで、ムネのところに打たせたかったんです。エラーの直後だからこそ、すぐに挽回した方がいいという思いでした。でも、さすがに狙ったところにゴロを打たせるような技術は、僕にはありませんでしたけどね(笑)」

 この日も石川は勝利した。通算173勝で始まった今シーズン。復帰後3戦で3勝を積み重ねて、通算176勝とした。それでも、石川に気の緩みはない。

「確かにいい結果が出たけど、今もまだ僕にとっては一戦、一戦がチャンスであり、ピンチです。いつ二軍に落とされるかという思いは、今でも常に持っています。結果が出なければファーム行きを命じられると思っています。そういう意味では、常にチャンス&ピンチの思いはずっと変わりません」

「次回登板は、一体いつになるのか?」と気を揉んでいた1カ月前と比べると、6月は十分すぎる結果がもたらされた。石川の活躍により、チームは貯金を増やし、トップの阪神に必死に食らいついている。これから、勝負の夏が訪れる。オリンピックブレークを挟んで、優勝争いはさらにヒートアップする。「チャンス&ピンチ」の思いを抱いた石川の左腕は、今後ますます重みを増す――。

(第五回に続く)

取材・文=長谷川晶一 写真=BBM

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