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ダンプ辻のキャッチャーはつらいよ

連載ダンプ辻コラム 第65回「投手を“つくる”ときには問題が起こるが、なぜか怒られない。でも、嫌なこともあった」

 

大洋時代の田中由郎。通算10勝16敗1セーブだった


王さんの一本足


 今回は、王(王貞治)さんの一本足打法の話からしてみましょうか。

 王さんと言えば、世界一たくさんホームランを打った人ですが、あの一本足打法を真似して大成功した人はいないでしょ。これって不思議と言えば、不思議ですよね。結果を出したのは、大洋の黒木(黒木基康)さん、南海から西武に行って、最後は大洋に行った片平(片平晋作)、あとは、大豊(大豊泰昭。元中日ほか)くらいかな。でも、彼らにしたって王さんに近づいたかと言うと、そういうわけじゃないよね。

 黒木さんと片平はキャッチャーとして、打席の姿を見たことがあるけど、マジメ過ぎというのかな。形を真似ようとして力が入り過ぎていた。特に足を上げてグリップをぐっと引いたときですね。ここでガッと力が入るんですよ。形を決めようとし過ぎていると言えばいいんですかね。

 王さんはあそこで力が入っていない。ただ、そこにすっと収まるんです。しかも、よくテレビでやっていましたが、あの姿勢で押されても動かん。そういう構えでした。そこから力が入らんままグリップが下がってボールのラインに合わせて振っていく。このスイングをすると、これ以上、手が前に出なくなるところがあるから、最後はいつもバットから左手が離れていた。

 あの人を見ていてよく思ったのは、「王さんは打つ! じゃないんだ。自然に打っているんだ」ということです。え? 話が分かりにくい? まあ、それだけ特別な人だったと思ってください。

 ほとんど引っ張っていたから、現役時代は王シフトと言って、野手がみんなライト方向に近づいてレフトがガラ空きだったでしょ。一度、王さんに「レフトに打たんのですか。簡単にヒットですよ」と聞いたことがあるけど・・・

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