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長谷川晶一 密着ドキュメント

第十回 「《真っフォー》って知っていますか?」220勝を目標にする石川雅規の尽きぬ向上心/41歳左腕の2021年【月イチ連載】

 

今年でプロ20年目を迎えたヤクルト石川雅規。41歳となったが、常に進化を追い求める姿勢は変わらない。昨年まで積み上げた白星は173。200勝も大きなモチベーションだ。歩みを止めない“小さな大エース”の2021年。ヤクルトを愛するノンフィクションライターの長谷川晶一氏が背番号19に密着する。

雨中の「完投劇」――今季最も印象的な登板


今季最も印象的だったのは初勝利を挙げた試合だったという


 プロ生活20年目となった2021(令和3)年シーズン――。プロ入り以来初めてとなる「開幕二軍」という屈辱で幕を開けた。好投を続けても、なかなか打線の援護に恵まれないこともあった。シーズン終盤には調子を落とし、プロ最短となる「1/3イニングKO」という悔しさも味わった。

 その一方で、オリックス・バファローズと対決した日本シリーズでは第4戦(東京ドーム)に先発し、強力打線を相手に6回1失点、自責点は0という見事なピッチングでチームにシリーズ3勝目をもたらし、自身としてもプロ20年目にして「日本シリーズ初勝利」を記録。そしてチームも20年ぶりの、つまりは石川が入団して以来最初の日本一に輝いた。ざっと概観しただけでも、「石川雅規の2021年」は波乱万丈に満ちたものとなった。

「このまま引退したらイヤだな……。そう思いながらいろいろ頑張ってきましたけど、本当に劇的すぎる一年でしたね。今年は一年間を通じて一軍にいることができなかった。でも、約二カ月の二軍生活の中で得ることも多かったです。一軍にいることも、登板機会をもらうことも、決して当たり前のことじゃない。そんなことを強く感じたシーズンでした」

 この一年を振り返って、石川はしみじみと言った。ペナントレース全17試合、日本シリーズでの1試合、「今季、印象に残っている試合は?」と、続けて質問する。何の逡巡もなく、彼は言った。

「今季初勝利となった、神宮球場での西武戦ですね……」

 石川の言う試合は、雨中の神宮球場で6月4日に行われた埼玉西武ライオンズとの交流戦初戦のことだった。この日、久々の先発機会を与えられた石川は5回を投げて1失点。打線の援護と激しい雨にも助けられ、5回降雨コールドによる「完投」で今季初めての、そして入団以来20年連続勝利を挙げて勝利投手となった。

「あの試合でつまずいていたら、今年の僕は大きく変わっていたと思います。あの一勝があったから、“石川はまだまだやれるんだぞ”ということを監督、首脳陣、ファンのみなさんに示すことができました。あの試合で勝てたことは本当に嬉しかったし、僕にとって今年一年を左右する試合でした」

 この試合の後、石川は翌週の対福岡ソフトバンクホークス戦(PayPayドーム)、翌翌週の対中日ドラゴンズ戦(神宮)でも勝利。一気に3連勝を記録することとなった。6月前半から中盤にかけての3試合を踏まえて、石川は確信する。「コンディションさえ万全ならば、オレはまだまだ通用する」、と。それは、首脳陣やファンに対するアピールとしてだけではなく、不安になりそうな自分を鼓舞する大きな、大きな一勝でもあったのだ。

新魔球「スラット」を磨き、新たに「真っフォー」習得を目指す


10月23日、東京ドームでの巨人戦は悪い意味で印象に残っている


 続けて、「打たれた試合で忘れられない試合は?」と問うと、こちらも何の迷いもなく石川は言った。

「優勝マジックが点灯した後、東京ドームで1/3イニングでノックアウトされた試合ですね(10月23日巨人戦)。あの試合は忘れられません……」

 連載第8回でも触れたように、プロ最短となる1/3イニングでのKO劇は石川にとって大きなショックを与えることとなった。シーズン終盤に差しかかり、コンディションは万全ではなかった。しかし、それにしても内容が悪すぎた。

「とにかく、コンディションを万全にしてもう一度チャンスをもらうしかない。そんな思いでした。クライマックスシリーズでは出番がなくて、次の出番がちょうど一カ月後の日本シリーズ。場所も同じ東京ドームでした。不安でしょうがなかったけど、何とか日本シリーズで勝つことができた。この一カ月の出来事は忘れられないですね」

 冒頭で述べたように、石川雅規にとっての2021年は波乱万丈な一年となった。17試合に登板して4勝5敗、防御率は3.07という成績に終わった。本連載第1回で、石川は「今年はもう一つのシンカーで勝負したい」と言い、新球種への手応えを口にしていた。シーズンが終わった今、改めてこのボールについて問う。石川の口調が軽くなる。

「いや、あのボールはなかなか投げられなかったですね(笑)。開幕前には手応えを感じていたんだけど、なかなか難しかったです。でも、シーズン中は伊藤智仁コーチに教わったスラットがなかなかいい感じでした。今はそのスラットの精度を上げたいと思っています」

 石川の言う「スラット」とは、「スライダー」と「カットボール」を組み合わせた造語で、両者の変化を持つ新たな変化球として、近年話題になっているボールだった。石川は続ける。

「あの、《真っフォー》って知っていますか? 真っ直ぐの回転で、フォークボールのように落ちるボールです。指が引っかかって、ストレートがバッターの手元で垂れてしまうような投げそこないのストレートなんですけど、今はそれを意図的に投げられないかなって考えています」

220勝を目標とする石川の視線はすでに2022年に


 今回の取材テーマを「2021年の総括を」と回顧的に考えていたインタビュアーをあざ笑うかのように、石川の視線はすでに「2022年」を見据えていることが嬉しかった。続けて石川が口にしたのは、30代半ばからさまざまな記録を打ち立てた「遅咲きのメジャーリーガー」の名前だった。

「ジェイミー・モイヤーっているじゃないですか。プロ野球では山本昌さん、メジャーリーグだと彼に憧れているんです! まだまだ上手くなりたいのでアンテナを張り巡らせています。今年、奥川(恭伸)のキャッチボールを見ていて、新たに気づいたこともあったんです。どういう意識で取り組んでいるのか、どんな投げ方をしているのか、まだまだ知らないこと、試していないことはたくさんありますからね」

 奥川のキャッチボールを見ていて、どんなことに気づいたのか? その答えはまだ秘密だ。現在行っている自主トレや、来年2月の春のキャンプでいろいろ試してみるのだろう。ここ最近のキャッチボールでは、意識的にナックルボールも投げているという。

「ナックルはちょっと特殊過ぎるのでなかなか難しいけど、何かヒントがあるんじゃないか、何か新しい発見があるんじゃないか、試してみて損はないですからね。例えば、思い切ってサイドスローにしてみるとか、まだまだ上手になるコツはあると思うから」

 不惑を迎え、20年目のプロ生活を終えた現在でもなお、石川は貪欲だ。かつてのチームメイトである村中恭兵由規久古健太郎らが、口々に「石川さんは年下の後輩たちにもいろいろと質問をしてくる」と語っていたことが思い出される。激動の一年が終わる今、石川がこの連載に込めた思いを振り返る。

「野球選手というのは、グラウンドに出ているときはもちろん、普段の練習のときからいろいろなことを考えながらプレーしています。この連載を通じて、“あっ、石川はこんなことを考えているんだな”って知ってもらったり、“石川も頑張っているんだな”って元気をもらえた! と思っていただけるのであれば、とても嬉しいです! 目標である200勝達成のためには、220勝するつもりで投げています。また来年も、どうぞ応援よろしくお願いします!」

 月イチ連載「2021年の石川雅規」は、これでひとまず完結する。もちろん、次回からは新連載「2022年の石川雅規」がスタートする。なおも走り続ける石川雅規の姿をしっかりと記録していきたい――。

(第十一回に続く)

取材・文=長谷川晶一 写真=BBM

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