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長谷川晶一 密着ドキュメント

第十二回「野球は無差別級」“球界最年長投手”石川雅規は開幕投手を胸に秘める/42歳左腕の2022年【月イチ連載】

 

今年でプロ21年目を迎えたヤクルト石川雅規。42歳となったが、常に進化を追い求める姿勢は変わらない。昨年まで積み上げた白星は177。200勝も大きなモチベーションだ。歩みを止めない“小さな大エース”の2022年。ヤクルトを愛するノンフィクションライターの長谷川晶一氏が背番号19に密着する。

「みんなの思いを背負って投げる」決意


3月3日の日本ハム戦で3回1失点と好投した石川


「最近、いろいろな人の思いを背負っている気がするんです……」

 今年の1月に42歳の誕生日を迎えた。球界最年長投手でもあるプロ21年目、開幕前の心境を尋ねると、石川雅規は「背負う」という言葉を口にした。

「僕は1980年の早生まれですけど、僕らの世代は野球少年がごまんといたと思うんです。その中で、現在プロ野球という世界では、僕と能見(篤史・オリックス)しか現役選手はいない。あれだけ多くの野球少年がプロを目指していて、今では僕ら二人だけ。勝手な思いかもしれないけど、みんな同じ志を持ってやってきた仲間だという気がするんです……」

 誰もが、同じ頃に野球と出会い、白球に魅せられて野球少年となった。はじめはほぼ横一線に並んだ状態で、小学校、中学校、そして高校、大学と少しずつ淘汰されながら野球ロードを歩み、ごくひと握りの選ばれし者だけがプロの世界に身を投じた。そして2022年、石川と、オリックスの兼任投手コーチである能見だけがユニフォームを着続けている。

「最近、“同世代の石川さんが頑張っていて嬉しい”と言われることが増えたけど、僕の方こそ力をもらっているんです。ラスト一歩のしんどいときに、その一歩を押してくれる力になる。だから、勝手に背負いたいんです。みんなとの繋がりを感じながら、大好きな野球をやっていきたいんです」

 みんなの思いを「勝手に」背負うことで、それを自らの力に変えたい――。その思いこそ、最近の石川にとっての原動力となっているのだ。

開幕戦――その特別な一日に


キャンプでの調整も順調に進んだ


 今年の沖縄は雨が多く、天候に恵まれない日々が続いた。それでも、石川にとってのプロ21年目のキャンプは、大きな故障もなく順調に全日程を終えた。いよいよ、オープン戦が始まり、本格的な球春の訪れを控えた今、石川の口調は明るい。

「年々、身体って変化していくものだから、また新たな21年目の自分を出さなくちゃいけない、今年の投げ方を見つけたいという思いでキャンプを過ごしました。まだザックリという感じだけど、いい感じに来ていますね」

 キャンプ終了時点で、高津臣吾監督は今年の開幕投手を明言していない。マスコミ上では「プロ三年目の奥川恭伸ではないか?」、あるいは「昨年に続いて小川泰弘だろう」と、さまざまな憶測記事が躍っている。もちろん、その中には「ひょっとしたら、ベテラン石川の可能性もある」との声も上がっている。こうした外野の声に対して、当の本人はどんな心境でいるのだろうか?

「自分のことで必死なので、正直よくわからないです(笑)。記事に対して右往左往することもないし、自分のことでいっぱいいっぱいですから。だって、立場的にも先発を確約されているわけじゃないですからね。でも、現役で先発を任されている以上、やはり開幕を目指すべきだとは思いますね」

 穏やかな口調で、石川は「自分のことで必死だ」と語る。その言葉に嘘はないだろう。しかし、人一倍負けず嫌いの彼のことだ。内心では「絶対に開幕を目指す」との思いが燃え盛っているはずだ。これまで、何度も開幕戦のマウンドを託されてきた。そんな彼にとって、「開幕戦」とはどのような重みを持つものなのだろうか?

「よく、“開幕戦は143分の1にしかすぎない”と言う人もいますよね。でも、僕はやはり大事な一日、大切な一試合だと思います。そこに立った人にしかわからない独特の雰囲気、ピリピリした感じがあるんです。逃げ出したくなる気持ちもあるのに、“あの感覚をまた味わいたい”と思ってしまう。本当にドキドキですよね(笑)」

 高津監督が就任した2020年、コロナ禍により開幕は遅れに遅れ、6月19日にペナントレースがスタートした。この年の開幕マウンドを託されたのが石川だった。高津監督は就任早々、「開幕は石川」と明言し、当初より開幕が遅れてもなお、ベテラン左腕にマウンドを託した。

「コロナでいろいろあったけど、“たとえ開幕が遅れても変わらないぞ”って言ってもらえたので、そこにしっかりと合わせることができました。あれは本当に嬉しかったし、意気に感じましたね」

 高津監督三年目となる22年シーズン。3月9日時点ではまだ開幕投手は公表されていない。虎視眈々と、21年目の大ベテランはその座を狙っている。

「年齢の壁」という新たなフェーズを迎えて


 みんなの思いを「勝手に背負う」と石川は言った。と同時に、こんなことも口にした。

「最近、僕についての記事が《プロ21年目》とか《42歳》とか、《最年長投手》とか、急に年齢のことを取りざたされる機会が増えた気がするんです……」

 まさに、この文章の冒頭でもこれらの単語を並べてしまった気恥ずかしさを覚えつつ、石川の言葉の続きを紹介したい。

「……年齢のことをフォーカスされるのは、自分にとっては“おいしいな”って思いますね。これだけ長くやっていると、何を言っても、何をやっても、“さすがベテランだ”とか、“すごい”って美化されがちなんですよね。だから、《42歳石川》《最年長石川》って活字にされると、“もっとしっかりしなくちゃな”って思いますね。でも、42歳になったのは初めての経験なので、どうすればいいのかはよくわからないんですけどね(笑)」

 誤解してはいけないのは、「石川は42歳だからすごい」のではなく、「石川は42歳の今もすごい」のだ。小さい頃から、身長や体格のことをからかわれることが大嫌いだった石川は、かつてこんなことを言っていた。

「小さい頃、周りからからかわれることもたくさんありました。相手が、《チ》と口にした瞬間に飛びかかることもありました。結局、返り討ちに遭うんですけどね……」

 石川が口にした「チ」とは、「チビ」であり、「ちいさい」であり、「ちっちゃい」という言葉だった。子どもの頃からずっと「大きい人には決して負けない」という思いをエネルギーに変えて努力を続けてきた。彼がしばしば「野球は無差別級だから」と口にするのは、これまでに何度も聞いてきた。そして現在、石川には新たなフェーズが訪れつつある。それが「年齢」ばかりが注目されることだ。

「今もずっと、“大きい人には負けたくない”という気持ちは変わらないけど、最近ではそこに《年齢》というのも加わってきた気がします。確かにフェーズが変わったのかもしれないですね。野球って無差別級ですから体型も関係ないし、年齢も関係ないし、シンプルにいちばんうまいヤツが一軍の舞台に立てる。そこが救いですからね」

 何度も彼が口にしているように、「年齢や実績で飯が食える世界じゃない」ことも、石川はよく知っている。体格も、年齢も超越して、石川は石川らしく、今年も自分のボールを投げ続けるのだ――。

(第十三回に続く)

取材・文=長谷川晶一 写真=BBM

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