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長谷川晶一 密着ドキュメント

第十四回 数々の支えが大きな力に…石川雅規が挙げた今季初勝利の裏側/42歳左腕の2022年【月イチ連載】

 

今年でプロ21年目を迎えたヤクルト石川雅規。42歳となったが、常に進化を追い求める姿勢は変わらない。昨年まで積み上げた白星は177。200勝も大きなモチベーションだ。歩みを止めない“小さな大エース”の2022年。ヤクルトを愛するノンフィクションライターの長谷川晶一氏が背番号19に密着する。

21年目42歳と、2年目19歳のバッテリー


4月23日の阪神戦で21年連続勝利となる今季初白星を挙げた石川


 4月23日、神宮球場で行われた、対阪神タイガース5回戦。史上7人目となる21年連続勝利、そして通算178勝目は19歳の内山壮真とのバッテリーでもたらされた。若き「女房役」について、石川雅規は言う。

「昨年はファームで、今年もオープン戦でバッテリーを組みましたけど、彼はすごく記憶力がいいんです。若いけれども、きちんと自分なりのプランを持っています。もちろん、衣川(篤史)バッテリーコーチの的確な助言もあるんですけど、その中で面白いリードをしますね」

 プロ21年目の大ベテランが語る「面白いリード」とは何か?

「追い込んでから、“いきなり、ここでカーブを要求してくるのか”と感じたことはありますね。緩いカーブというのは、手詰まりになったときに投げることが多いんですけど、序盤でサインが出たこともありました。自分にはない発想のリードはやっぱり面白いですね」

 プロ21年目42歳と、プロ2年目19歳――23歳もの年の差があるバッテリー。石川には心がけていることがある。

「壮真に限らず、若いキャッチャーとバッテリーを組むときには、“自分の好きなようにリードしていいからね”と伝えています。もしも呼吸が合わなかったり、“そのボールは投げたくない”というときにはプレートを外したり、ストライクで勝負せずにわざとボールを投げたりします。キャッチャーにはそれぞれの考えやリードがあるので、“どんなリードをするのかな?”と、僕自身も楽しんでいます」

 キャッチャーからのサインに納得がいかないとき、石川はわざとボール球を投げることもあるという。それがわざと「外したボール」なのか、それともストライクを狙ったものの「外れてしまったボール」なのか、当のキャッチャー自身はわかるものなのだろうか?

「中村(悠平)はわかりますね。ベンチに戻ったときに、“石川さんあのボール、イヤだったんですね”と言われますから。やっぱり、長い間バッテリーを組んでいるから、僕の仕草や投げ方でわかるんじゃないですかね、さすがチームの要、僕の女房です(笑)」

古田敦也から、中村悠平、そして内山壮真へ


4月23日の阪神戦では19歳の内山[左]とバッテリーを組んだ


 この日の試合。石川には「わざと外したボールがある」という。一例をあげれば、初回、一死一塁の場面。打席には阪神タイガースの三番・佐藤輝明。彼に対する2球目がそうだ。

「初球ストライクの後の2球目のシュート。このとき、わざとボールを投げました。何か気持ちが悪いときってあるんです。結果的に、その後にヒットは打たれましたけど……」

 一死満塁のピンチを生み出してしまったものの、初回だけで実に30球を費やして後続を断ち切って無失点に切り抜けた。ベンチに戻り、改めて内山との確認作業を行う。もちろん、佐藤輝に投じたシュートの件も、話題に出る。

「内山も、“あぁ、そうなんですね”と言っていました。彼はそんなに大きな声でしゃべるタイプではないですけど、“僕はこう思います”と、自分の意見はしっかりと言ってくれるので、ちゃんとした会話が成り立ちます。年齢は違えども、自分の意見をきちんと言う。そこは同じ野球選手としてとても大事なところだと思いますね」

 プロ21年目の大ベテランに対して、臆せずに自分の意見をきちんと伝えることができる。プロとして、当然のことかもしれない。しかし、なかなかできることではない。内山の非凡さを物語るエピソードだろう。

 2002年、石川がプロ入りした頃、ヤクルトの正捕手は古田敦也が務めていた。すでに球界を代表する名捕手のリードを信じて、自分のボールを投げ込めばよかった。ときは流れて、今度は石川が大ベテランとなった今、今度は若いキャッチャーを育てる番となった。

「僕自身、“キャッチャーを育てよう”なんて、滅相もない(笑)。でも、いつか壮真がキャリアを積んだときに、“石川さんとバッテリーを組んでいたことがすごくタメになった”って思ってもらえるようなピッチングはしたいですね」

 さらに、石川は続ける。

「かつてはただ古田さんのミットを目がけて投げるだけだったけど、古田さんからの流れが壮真にも伝わってくれたらいいなと思います。今年の春のキャンプで、壮真も古田さんのミーティングを受け、アドバイスをもらっていました。ヤクルトの伝統、いい流れを継承していると思うので、壮真や中村はもちろん、古賀(優大)、松本(直樹)にも大切にしてもらいたいですね」

「青木おじさん」の見事な決勝ホームラン


ヒーローインタビューは盟友の青木[左]とともに行った


 この日の試合は、初回こそ30球を要したものの、2回以降は完全に立ち直り、阪神打線をまったく寄せつけなかった。3回にはライトの太田賢吾が、さらに6回にはショートの長岡秀樹がファインプレーで石川を盛り立てた。また、2回表、阪神の攻撃が始まる直前、セカンドの山田哲人が石川の下に歩み寄り、しばらくの間、何事かを話し合っていた。このとき、どんな会話が交わされていたのか?

「初回にダブルスチールを許しましたよね……」

 石川が口にしたのは、四番の大山悠輔が打席に入っていた一死一、二塁の場面でのダブルスチールの場面だった。

「……あのとき、僕がしっかりと二塁ランナーを見て、目で抑えなくちゃいけなかったのに、それがうまくできなかった。そこを山田に指摘されました。僕も納得できたので、そういう指摘はすごくありがたかったですね。太田だったり、長岡だったり、あの日はバックから本当に勇気づけてもらいましたね」

 太田、長岡は好守で盛り立て、山田は冷静なアドバイスで石川を支える。そして、この日の最大の援護をもたらしたのは「盟友」青木宣親だった。気合いを入れるべく丸刈りで臨んだ青木は4回裏、ライトスタンドに今季第1号となる豪快な一発を叩き込んだ。

「青木おじさんとは、いちばん長く一緒の時間を過ごしていますからね。彼は気合いを入れるために、これまでに何度か丸刈りにしています。僕としたら、“またこの時期が来たか”という感じです。でも、“今年は髪を伸ばす”って言っていたんですけどね(笑)。本人は、“やっぱりダメでした。我慢できないっす、僕”って笑っていましたけどね」

 この日、石川は6回を被安打3、無失点でマウンドを降り、そのまま1対0でチームは勝利した。試合後のヒーローインタビューでお立ち台に上がったのは、40歳の青木、そして42歳の石川だった。感情を爆発させ、大喜びの青木の後を受けて、石川は淡々と喜びの弁を語っていた。

「本当は僕もはしゃぎたかったんです。でも、青木が大はしゃぎしているから、“僕はしっかりしなくちゃ”と思いました。だって、おじさん2人ではしゃいだら恥ずかしいじゃないですか(笑)」

 石川の言う「おじさん2人」がはしゃぐヒーローインタビューはまた次の機会で披露されることを楽しみに待ちたい。今季1勝目にして、プロ通算178勝目は、チームメイトたちの支えでもたらされた。これから、さらに白星を積み上げていく。石川の21年目のシーズンが、ついに本格始動した――。

(第十五回に続く)

取材・文=長谷川晶一 写真=BBM

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