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長谷川晶一 密着ドキュメント

第十七回 凄みを増す22歳――石川雅規が「村上もすごく変わった」と感じた「あの発言」とは/42歳左腕の2022年【月イチ連載】

 

今年でプロ21年目を迎えたヤクルト石川雅規。42歳となったが、常に進化を追い求める姿勢は変わらない。昨年まで積み上げた白星は177。200勝も大きなモチベーションだ。歩みを止めない“小さな大エース”の2022年。ヤクルトを愛するノンフィクションライターの長谷川晶一氏が背番号19に密着する。

コロナによって何もかもがやり直しに……


8月23日の広島戦で6回に逆転3ランを放った村上


 7月28日のPCRスクリーニング検査により、新型コロナウイルス陽性判定を受けた。幸いにして大事には至らなかったものの、8月23日の実戦復帰まで実に一カ月もの調整期間を要することになった。この間、石川雅規は「恐怖」に襲われていたという。

「およそ1週間、自宅療養を続けました。自宅には簡単なトレーニング機器はあるけれど、もちろん本格的な練習はできないし、外に出られないからランニングもできない。シーズン中に1週間もほぼ何もしない経験なんて、これまでなかったです。“もう一度、ちゃんと戻ることができるのか?”、それは《不安》ではなく、《恐怖》でした」

 自宅療養期間を経て、久々にグラウンドに出る。慣らし運転のように少しずつ身体を動かしていく。ランニングをしても、体力の低下は明らかだった。特に心肺機能の衰えは深刻だった。

「少しずつランニングの距離を伸ばしていきました。自分の身体が自分のものじゃない感覚でした。一度、フニャッとしてしまった身体はなかなか元に戻りませんでした。復帰3日目、4日目ぐらいに初めてブルペンに入りました。ランニングに関しては、少しずつ元に戻っている実感は出てきたんですけど、いざブルペンで投げてみると、たった20球、30球投げただけでヒューヒュー、ハーハーとなって、膝に手をつきました。全力疾走で走り回ったような感覚で、呼吸と心臓のバクバクがイレギュラーになっていましたね」

8月23日の広島戦で新型コロナ感染から一軍復帰登板を果たした石川


 齟齬をきたしていたのは体調だけではなかった。投球のメカニズムの狂いはさらに深刻だった。石川が解説する。

「下半身が使えなくなったことで、上半身との連動がズレてしまいました。たった1週間休んだだけで、こんなにもズレてしまうということを知って、本当に怖くなりました。練習を休むことがこんなにも怖いことだとは思わなかったです。それは微調整でどうにかなるものではなく、一からの作り直しでした」

 自分の身体と相談しながら、少しずつ負荷をかけていく。それまでにできていたことが、なかなか思うようにいかない。それでも、石川の復帰プランは決まった。16日に一度ファームで登板し、その翌週23日の広島東洋カープ戦が一軍復帰登板となった。

「なかなか手応えは持てなかったけど、自分なりにきちんと手順を踏んでいるという実感はありました。ファームで投げて3イニングを2安打で無失点に抑えて、“これなら一軍でも投げられるかな?”という思いで、神宮のマウンドに上がりました」

プロ2年目の頼れる女房役・内山壮真


石川からの評価も高い2年目捕手・内山


 一軍復帰登板となった23日の広島戦(神宮)。石川は「自分が投げることで、チームに再び勢いを与えられたらいいな」という思いを胸に秘めていたという。しかし、初回にいきなりマクブルームに特大のスリーランホームランを喫してしまった。

「正直言えば、若干手探りの部分はありました。先頭打者を打ち取って、“よし、こういうピッチングで粘り強くいこう”と思っていたところ、二番の羽月(隆太郎)選手にヒットを打たれてしまいました。彼の足を気にしている中で盗塁を許し、三番の西川(龍馬)選手にフォアボールを与えてしまった。そこからの一発でした……」

 いきなり3失点を喫する苦しい立ち上がりとなった。しかし、ここから石川は何とか立ち直る。2回以降5回終了時に降板するまで無失点に抑え、6回裏村上宗隆のスリーランホームランで見事に逆転勝利を呼び込んだ。2回以降、どうにかして調子を取り戻した理由はどこにあるのか? 技術面では「軸足の使い方」を変えた。さらに、「打者への攻め方」も変えた。そこには女房役・内山壮真の存在があった。

「1回表が終わってベンチに戻ってすぐに、(内山)壮真と話し合いました。そこからイニングが終わるたびに、広島の各バッターが何を狙っているのか、どんな思いで打席に立っているのかを二人で話し合いました。最初に僕が、“壮真はどう思う?”と質問をすると、彼は“右打者はこのボールを狙っていて、左打者はこのボールを狙っているように思います”ときちんと自分の意見を言ってくれます。それで、“あぁ、オレもそう思うよ”と言うと、“じゃあ、次はこう攻めましょうか?”と返してくれるんです」

 プロ21年目、42歳の大ベテランに対して、まったく臆することなく自分の意見を述べ、対応策を提案できるプロ2年目、20歳の内山壮真。実に頼もしい女房役だ。

「スワローズには中村悠平という正捕手がいます。でも、壮真も相手チームと立派に戦えています。今年は彼とバッテリーを組むことが多いので、かなり意思疎通はできていると思います。彼の場合、《Because》、つまり《なぜなら》がきちんと言えるからです。彼の意見は、僕が考えていることとほぼ一致します。ときには僕が気づいていないこと、考えてもいないことを言ってくれるので面白いですね」

 そして、石川はこう続けた。

「もう、100%の信頼をおいて壮真とバッテリーを組んでいます」

村上宗隆の圧倒的存在感とその覚悟


 前述したように、この日の広島戦は村上宗隆の逆転ホームランでチームは勝利した。「チームが勝てたことはよかったけど、自分のピッチングには何も満足はしていない」と石川は言う。登板後には2.5キロも体重が減っていた。「本当の復帰登板はまだできていない」と語る石川は、この日改めてチームメイトである村上の凄みを感じていたという。

「この日、村上のスリーランホームランが飛び出した瞬間、鳥肌が立ちました。やっぱり本物の四番ですよ。“ここぞ”というときに打ってくれるのが四番ですから。もうバケモノかと思いました。本当に同じチームでよかったです(笑)」

 石川の「村上評」はさらに続く。

「元々、チーム内での存在感はあったけど、最近ではよりどっしりしたし、ただ自分が頑張るだけじゃなくて、“オレがチームを引っ張るんだ”という意識が見えてきています。僕、あの発言を聞いて、“あぁ、村上もすごく変わったな”と思ったんです……」

 石川の言う「あの発言」とは、コロナ禍により選手が大量離脱した際に村上が言った、「自分がチームの中心にいることは自覚している」という発言のことだった。

「あの発言を聞いて、“すごいな”って思いました。あえてマスコミの前で口にすることによって、自分自身にプレッシャーをかけて、より自分で責任を背負おうとしているんだと思います。それは彼の成長だし、やっぱりチームの中心選手なんだって実感しました……」

 続く言葉は、いかにも謙虚な石川らしいものだった。

「……やっぱり、若いとか年を取ってるとか、年齢なんて関係ないんですよ。ベテランと言っても、ただ若い人よりも長い期間ご飯を食べて、いっぱい寝ているだけであって、年齢とかキャリアなんて、全然関係ないんですよね」

 ペナントレースも、いよいよ大詰めに差しかかった。チームは一時期の不振状態からようやく復調の気配を見せ始めている。もちろん、石川も「連覇」を目指すチームの輪の中に加わるべく、次の登板機会を伺っている。

「一応、一軍マウンドに戻ってきたけど、やっぱり僕らは一軍の試合で勝ってナンボの世界に生きています。次回は、前回の反省を踏まえてマウンドに上がります。自分が勝つことによってチームも勢いづくし、僕自身も“一軍に戻れたんだ”という気持ちを持てるはず。もう、勝つことしか考えていないですね」

 20歳の内山壮真、22歳の村上宗隆に支えられ石川は再びマウンドに立つ。優勝まであとわずかだ。頼もしい若手選手たちに、ベテランの意地と実力を見せつけるべく、石川は再びマウンドに立つ――。

(第十八回に続く)

取材・文=長谷川晶一 写真=BBM

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