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長谷川晶一 密着ドキュメント

第二十四回 石川雅規にとって「先発のバディ」小川泰弘 「ツボなんですよ、ライアンのことが(笑)」/43歳左腕の2023年【月イチ連載】

 

今年でプロ22年目を迎えたヤクルト石川雅規。43歳となったが、常に進化を追い求める姿勢は変わらない。昨年まで積み上げた白星は183。200勝も大きなモチベーションだ。歩みを止めない“小さな大エース”の2023年。ヤクルトを愛するノンフィクションライターの長谷川晶一氏が背番号19に密着する。

そこはかとない昭和感が心地いい


今季3年連続7度目の開幕投手を務めるなどヤクルト投手陣で中心的存在の小川


「でも、亮ちゃんとか、タテがいてくれた頃はすごく心強かったですよね。今、年齢で言えば僕の次は石山(石山泰稚)ですけど、石ちゃんとは9歳も離れていますからね……」

 石川雅規の言う「亮ちゃん」とは五十嵐亮太氏であり、「タテ」とはもちろん、館山昌平氏であり、ともに同じチームで切磋琢磨したかつてのチームメイトのことだ。それは、「球界最年長選手としての思い」を聞いていたときに、石川の口からふと飛び出したフレーズだった。

 自分と同世代の選手がいる間は、気兼ねなく悩みや弱音を口にすることもできた。しかし、自分よりも若い選手たちに、自身のストレスのはけ口を求めるわけにはいかない。常に先輩として、年長者としての振る舞いを求められるのが、プロ22年目、43歳を迎えた石川の現在地なのである。

「……だから、“もっと、石ちゃんも砕けてきてよ”って思うこともあるんですけど、石ちゃんにとっては地元も一緒だし、“自分が小学生の頃から投げている人と一緒にいる感覚が抜けないんです”と言うんです(苦笑)。逆の立場なら確かにそうだなと(笑)。石ちゃんは一番気になるし、めちゃくちゃかわいいバディの存在なんですけどね」

 1988年生まれの石山に続いて、次に年齢が近いのが1990年生まれの小川泰弘だ。小川についての印象を聞くと、石川の笑顔が弾ける。

「みなさんもご存知のように、ライアンのああいうテンポっていうのは、いい意味で僕ら世代寄りなんです。ライアンはまったく動じない、あの雰囲気が最高です。僕は勝手に、ライアンのことを《先発のバディ》だと思っていますね……」

 心を許した存在、ともに人生を歩むべき相棒のことを、石川はしばしば「バディ」と表現する。現在のヤクルトにおいて、小川は石川にとっての「バディ」の一人だという。平成生まれの小川の中に宿る、そこはかとない昭和感。それが、石川にとっては心地いい。

「……今、すごく嬉しいことに、クラブハウスのロッカーの右隣がライアンで、左隣が青木(宣親)なんです。めちゃめちゃいい並びなので、すごく居心地がいいです(笑)」

 石川が無邪気にほほ笑んだ。その姿を見ていると、席替えのたびに、仲のいい友だちと離れたことを残念がったり、ほのかに思いを寄せる子の隣となったことを喜んだりした、小学生の頃の思い出が頭をよぎる。

神宮球場クラブハウス内での和やかな談笑


 石川は続ける。

「神宮のクラブハウス、数年前にロッカーがきれいになったんですけど、そのときに“年上の人から決めていいよ”ってなったんです。それで僕が、“ノリ(青木)、端っこで、その隣がオレね”って。そして、反対側の隣がブキャナンで、その隣がライアンでした。で、ブキャナンが退団したときに、ライアンが“石川さん、隣、いいっすか?”ってなって、そこからは左隣がノリで、右隣がライアンになったんです(笑)」

 クラブハウスのロッカー内で、青木と小川に挟まれて談笑している石川の姿が目に浮かんだ。と同時に、素朴な疑問も芽生えてくる。昨年、石川は「投げ抹消」を繰り返している。登板しては、一度登録抹消をして、再び10日後に一軍に戻ってくる。その繰り返しだ。「主」が不在の間、ロッカーの並びはどうなるのだろう?

「10日間の抹消期間、神宮で試合があるときには一軍に帯同していて、遠征中は戸田で練習をしているんです。だから、ロッカーはそのままで、あんまり荷物を動かすことはないです。でも、一昨年とか昨年とか、ずっとファームにいた間は完全にキレイにして、“誰か使ってね”って言っていました」

 そして話は再び、ロッカーの右隣を陣取る小川の話に戻る。

「それにしても、ライアンはホントにすごく面白いですよ。僕、ずっとツボなんですよ、ライアンのことが(笑)。キャッキャッはしゃぐわけじゃないけど、マイペースでボソッと面白いことを言うんです。説明は難しいんですけど、その場の空気感とか雰囲気がホントにオモロイんですよ」

 本当に楽しそうに石川が笑う。クラブハウスロッカー内での和やかな雰囲気が鮮やかによみがえってくるようだった。

「僕の2023年は、まだ開幕していない」


今季は4月6日の中日戦で初登板したが、勝利を飾れなかった石川


 プロ22年目となる2023年シーズン、石川の開幕は4月6日の中日ドラゴンズ戦(バンテリン)となった。この日石川は、2回に1失点、3回に2失点を喫し、計3失点、自責点2、3回途中で降板した。結果的に、開幕5連勝と波に乗っていたチームに今季初黒星をつけることとなってしまった。その翌日、石川はファーム行きを命じられた。

「先発ピッチャーとしては、“自分が投げる試合がその年の開幕だ”という思いは、例年と同じでした。やはり、期待と不安はいつもあります。チームは連勝中でいい流れでしたから、“よし、やってやろう”という気持ちでした。でも、いい流れを止めてしまった。ましてや3回途中だったので、自分としては、“まだ何もしていない”というのが率直なところですね。だから、心の中ではまだ開幕していない気がします」

 石川の2023年シーズンはまだ始まっていない。だからこそ、次回登板に向けて、気合いに満ちあふれ、「次はこんなピッチングをしよう」というイメージもできている。その言葉に熱が帯びる。

「悪いピッチングをしたとしても、それをずっと引きずっていたらダメですよね。いつまでも“ダメだ、ダメだ”と言っていたら、余計に深みにハマるだけだから、どこかでプラス思考に切り替えることが大事なので、もう気持ちは切り替えています。長いプロ野球生活の中で、開幕から2カ月ぐらい勝てなかったこともあったので、“それに比べたら、どうってことないよ”という思いはありますね」

 まずはプロ22年目、最初の白星がほしい。そこで初めて、石川の2023年シーズンが幕を開ける。だからこそ、前回の反省を踏まえつつ、しっかりと切り替えた上で、次の試合に臨むことだけを意識している。しかし、どんなに経験を積んだ大ベテランでも不安はある。

「もちろん、“今年、一つも勝てないんじゃないか?”という不安はめちゃめちゃあります。僕らはお互いにプロなので、そう簡単に抑えられるわけじゃない。楽天的に考えてばかりでうまくいくわけではないですから」

 開幕以来ノーヒットが続くと、どんなに大打者であっても「今年は1本もヒットが出ないのでは?」と不安になると聞く。それは青木であっても同様だという。かつて、石川は「青木が打てないはずないじゃないですか。そんなこと心配することないのに」と笑った。しかし、自分のことになると、石川もまた青木と同様の不安を抱くのだという。

「そうなんですよ、人のことは“絶対に打てるよ”って思っているのに、自分のことになると、“本当に勝てるのかな?”って不安になる。もちろん、自分に自信を持っている部分もあるんですけど、つい“周りの人がすごいな”って思う自分もいるんです。だって、みんな周りはプロ野球選手なんですから。でも、僕もプロ野球選手なんですけどね(笑)」

 自信と不安の間を行ったり来たりしながら、石川は次回登板に備えている。神宮球場クラブハウスロッカーの定位置はずっと変わらない。青木と小川に挟まれて、今年も1年間、長いペナントレースを戦い抜く。充実したシーズンを過ごすためには、まずは1勝だ。次回登板に向けて、石川は今、静かに、そして熱く燃えている――。

(第二十五回に続く)

取材・文=長谷川晶一 写真=BBM

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