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<騒動に潜む謎と闇>衝撃を巻き起こした1月11日 “灰色決着”と人的補償制度の問題点

 

ただでさえ賛否両論が噴出した今オフの山川穂高のFA移籍だったが、その後の人的補償の局面でも世間を賑わせることとなった。実際のところ、何があったのか、“真実”は分からない。それでも、たくさんの人間が心を痛めたことは間違いない。
文=喜瀬雅則(スポーツライター) 写真=高塩隆、湯浅芳昭

両球団の公式発表前に名前が挙がったのが和田だったこともあり、ここまで大きな波紋を呼ぶことに


 今回の人的補償問題が、何ともすっきりしないのは、プロテクトされた選手のリストが非公表であるために、どの要素を取ってみても、推測の域を出ないことだ。

 事の発端は、1月11日付の日刊スポーツだった。西武からFA宣言、ソフトバンクへ移籍した山川穂高の人的補償に、西武が今年43歳を迎える和田毅を「指名する方針を固めた」と報道。昨季チーム2位の8勝、小久保裕紀新監督も就任直後に有原航平とともに今季の開幕先発ローテーション入りを明言していた左腕。NPBではホークス一筋18年目。将来の監督候補とまで呼ばれているレジェンド級の存在を、プロテクトの28人から外していたという“状況証拠”が出てきたとあって、SNS上でも議論が大沸騰。球団側にも抗議電話やメールが殺到したという。

 ところが、夕刻に両球団から公式発表された人的補償は、和田ではなく、リリーフ右腕の甲斐野央だった。事前に和田の指名打診は、果たして西武側からあったのか。問われたソフトバンク・三笠杉彦GMは「コメントはありません」。また、人選について確認された西武・渡辺久信GMも「(結論を出したのは)今日(11日)です」。両球団の間で一体何が起こったのか。真相はやぶの中だ。

山川の人的補償により、西武への移籍が決まった甲斐野。しかし、腑に落ちない部分は多い


 プロテクトできるのは28人。そのリストは、FAに関わる当該球団間でしかやり取りがされない。西武は隅田知一郎佐藤隼輔ら若手左腕が多く、昨秋のドラフトでも1位で評判が高い即戦力左腕・国学院大の武内夏暉を獲得。だから推定年俸2億円、海外FA権も保持しているベテラン左腕に食指は伸ばさないだろうとソフトバンク側が踏み、一人でも多くの若手をプロテクトしようと考えた結果、和田がリストから漏れたというのも分からないでもない。ただ、リストから本当に外れていたのであれば、西武が和田を「獲る」という方針で動いたことには、ルール上は何ら問題がない。

 人的補償の甲斐野は、昨季46試合に登板し、最速160キロを誇る。そうすると、ソフトバンクは、開幕先発ローテーションが内定している左腕と、勝利の方程式を担う可能性のある右腕の2人、いずれもプロテクトしていなかったということか。何とも解せない事態に、別の推論も浮かび上がってくる。

 リスト外の和田を、西武は「獲りますけど、本当にいいんですね」と最終確認した。ソフトバンクにすれば想定外の指名、さらには日刊スポーツの“スクープ”でファンの反発も膨れ上がったことで、西武に「待ってくれ」と“泣き”を入れ、リストを修正。プロテクトが外れた甲斐野を、西武が指名したというストーリーだ。人的補償での移籍が決まった当該選手がこれを拒否すれば、「資格停止選手」になる。そこまで厳格なルールがありながら、水面下で何かしらの調整があったのでは、と推察できるかのような“灰色決着”に、人的補償不要論にリンクする形で、メジャーのようにFA選手が流出した球団にドラフトの上位指名権を渡す、あるいはプロテクトのリストをNPBに提出して人的補償の指名・通達はNPBが行えばいいといった、さまざまな改革案すらも聞こえ始めた。

 誰をプロテクトし、誰を外したかという“分類”で、球団側の期待度や評価が見えてしまう部分がある。だから、FAでのプロテクトリストも、2022年から始まった現役ドラフトで各球団が出す指名リストも一切非公表で、選手とチームの今後の関係を考えても、トップシークレットでなくてはならない。そのリストに関する情報が洩れたことも問題だが、ソフトバンク側にどこか慌てふためいた雰囲気が漂ったことで、球団が認めなくとも、和田がプロテクトから外れていたことが“事実”として、もはや独り歩きしてしまっている。最も避けなければならなかった事態が起こり、その渦中に図らずも巻き込まれた和田、人的補償で移籍する甲斐野の心中を慮れば、実にやり切れない。
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