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長谷川晶一密着ドキュメント

第三十一回 200勝は「15連勝」で決めたい…「ワクワクすること」で満ちあふれる石川雅規/44歳左腕の2024年【月イチ連載】

 

今年でプロ23年目を迎えたヤクルト石川雅規。44歳となったが、常に進化を追い求める姿勢は変わらない。現在まで積み上げた白星は185。200勝も大きなモチベーションだ。歩みを止めない“小さな大エース”の2024年。ヤクルトを愛するノンフィクションライターの長谷川晶一氏が背番号19に密着する。

古田敦也臨時コーチと過ごす「初心に帰れる時間」


23年目のキャンプを順調に過ごし、実戦に入っている石川


 プロ23年目の春季キャンプを無事に完走した。昨年秋から続けてきた自主トレから順調に自分のペースで走り続けてきた。石川雅規の表情は明るい。

「今年のキャンプは昨年よりも投げ込むことができたし、腕の位置をいろいろと試行錯誤できたので、《今年の投げ方》が見つかりつつあります。キャンプ終了まで、自分の思い描いていたイメージ通りの調整ができたと思います」

 前回の本連載で述べたように、石川は毎年「今年の投げ方」をキャンプ期間中に模索し、それを完成させた上で開幕に臨むように心がけている。年齢、そしてキャリアを重ねれば当然、肉体面でも変化が生じる。それに合わせて微調整を行いつつ、「今年の投げ方」を完成させるのだ。

「コンディションがよかったので、いろいろなことを試すことができました。そして今年も、古田(古田敦也)さんが臨時コーチとして参加してくれたのでブルペンでボールを受けてもらうことができました。“もっと落ちていると思ったけど、今年も変わらないボールを投げてるぞ”と言ってもらいました。古田さんなりのリップサービスだとわかっていても、やっぱり嬉しいですよね(笑)」

 古田氏が臨時コーチを務めるのは4年連続となる。ここ4年間、石川は「初心に帰れる時間」を過ごしている。

「僕が入団したときのキャッチャーが古田さんでした。あれから23年が経って、今でも18.44メートル先には古田さんがいる。普段はなかなか初心を思い出すことってないけど、古田さんに受けてもらう瞬間は、僕にとっては初心に帰れる時間なんです。あのピリピリした緊張感を今年も味わうことができた。それだけでも、かなり大きな意味があります」

 2月24日のオープン戦初戦(対阪神、浦添)では先発マウンドを託され、2回を無失点に切り抜けた。降板後にはすぐにブルペンに行き、「試合で使うことができなかったボール」を中心に、さらに20球ほど投げ込みを行った。

「あの日は指がかかってキレのあるボールを投げられたし、バッターも差し込まれている打球が多かったので手応えはありました。報道では《最速129キロ》と報じられていたけど、あれ、実際は133キロですから。あの球場は(スピード)ガンの数字が厳しめに表示されるけど、実際はもっと速かったんです。普通の人は、“129も133も変わらないだろ”って思うかもしれないけど、僕にとっては1キロの差はすごく大きいんですから(笑)」

 屈託なく笑う表情にキャンプの充実ぶりが表れているようだった。

山本昌氏からもらった、さまざまな「言葉」と


 キャンプの収穫はまだまだある。キャンプを視察していた山本昌氏から、直々にさまざまなアドバイスを受けることができたことも、石川にとっては大きなプラスとなった。

「ブルペンで投げていたら昌さんがいらしたので、“昌さんは44歳の頃、どんなことを意識していましたか?”と、こちらからいろいろ質問しました……」

 石川と山本氏は旧知の間柄である。このときもまた、石川の特技でもある「興味のあることは貪欲に質問する」という一面が顔を覗かせた。

「昔の指導者は、“軸足の膝に土がつくのはいいピッチャーだ”と言っていましたよね。僕の場合は左足ですけど、左足のすねとか、膝の近くまでマウンドの土がつくのは、きちんと体重を乗せて沈み込んで投げられている、と。それが正しいのかどうかはさておき、昌さんから、“土のつき方を意識していた”と聞きました」

 さらに石川は続ける。

「そう言われてみれば、僕が最優秀防御率のタイトルを獲った2008(平成20)年の頃は、甲とか足首とかまで土がついて、投げ終わるたびに左足の親指が血だらけになるほど擦れていたんです。ちょうど、痛風の人が腫れてしまう辺りです(笑)。でも、言われてみればここ数年はつま先にしか土がついていないことが多い。そこはこれまであまり意識していない点でした」

 もちろん、「じゃあ、そのまま昔通りに戻せばいい」という単純なものではない。けれども、山本昌氏とのやり取りには、石川が常々求めていた「言葉」があった。

「そうなんです。僕がいつも求めているのは《言葉》なんです。今まで気づいていなかったこと、何とも思っていなかったことを知りたくて、いろいろな人と会話をしています。今回の昌さんとの会話では、いろいろな気づきがありましたし、実際に土のつき方を意識し始めてから、軸足がうまく使えるようになった気がします」

「僕はディセプションで勝負するピッチャー」


 50歳まで現役を続けた山本昌氏とのやり取りでは、さらなる発見もあった。

「今回のキャンプでは、テイクバックしてからトップに入る過程を少しだけ変えてみました。だから昌さんに、“トップを作るときにはどういう意識でしたか?”って尋ねました。すると昌さんは“トップを作るなんて意識したことはないよ。トップはただ通過するだけ”と話していました。やっぱり、人によって考え方は違うんですよね。まだまだ知らないことばかりだから、本当に毎日が発見の連続ですよ」

 プロ23年目、44歳になっても「毎日が発見の連続だ」と断言できることこそ、古田氏が「まだまだボールが若いよ」と絶賛する一因なのだろう。このキャンプでは、前回紹介した脳トレ「ライフキネティック」にも取り組んだ。

「脳トレはリモートで1時間ぐらいやりました。“こんなに自分はできないのか”というぐらいなかなかうまくいかない面白さがあります。その日は疲れすぎて速攻、爆睡でした(笑)」

 今回のインタビューでは、石川の言葉の端々から、少しずつ開幕が近づいている高揚感が随所に感じられた。印象的だったのが、ラプソードなどの最新機器に関する話題となったときのことだった。「回転数や回転軸をチェックすることのできるラプソードをどのように活用しているのか?」と尋ねたときのことだ。

「いろいろなことが可視化されるというのは、再現性を高めるためにはすごくわかりやすいです。でも、僕の場合は球速もそうですけど、回転数やシュート成分、ホップ成分などで勝負しているピッチャーじゃなくて、タイミングのずらしあいで勝負するピッチャー。ディセプションで勝負するピッチャーなんです」

 石川が口にした「deception」とは、辞書を引けば「幻影的な妙技、欺く行為」などと出ている。まさに、ボールを持つ長さを変え、プレートの位置を変え、同じコースから異なる変化球を駆使する石川のピッチングは「幻影的な妙技」であり、ディセプションの集大成だ。

「ピッチャーはバッターを抑えるのが仕事。どんどん球速が上がっていくプロ野球界だからこそ、僕は真逆をいきたい。そうやってここまで生きてきたし、これからもそれを証明していきたい。常識を覆したいんですよ。そんな思いは本当に強いですね。ただの負け惜しみですけど(笑)」

 そして石川は、残り15勝と迫った200勝に向けて、「15連勝で決めたいな」と無邪気に笑った。それは、昨年2勝に終わったピッチャーと同一人物には思えないほど屈託のない笑顔だった。こちらの思いを察したのか、石川は続けた。

「開幕前に“今年は勝てるだろうか?”とか、“勝てなかったらどうしよう?”って考えてしまうことはもちろんあるけど、まだ起きてもいないことを不安に思うぐらいなら、ワクワクすることを考えた方が絶対にいいですよ」

 そして石川はさらに「ワクワクすること」を語り続けた。

「シーズン序盤にきちんと勝つことができれば、当然登板機会も増えてくる。もっとチャンスをもらえれば、15連勝の可能性もあるじゃないですか。15連勝したらまた給料が上がって、もう1年現役を続けられますね(笑)」

 今回のインタビューは終始、希望に満ちた「ワクワクすること」であふれていた。これからオープン戦が本格化する。狙いは、自身10回目の開幕投手だ。「もちろん、そこを狙っている」と語る石川の表情は充実感に満ちている――。

(第三十二回に続く)

写真=BBM

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