第97回選抜高校野球大会は3月30日、横浜の19年ぶり4度目の優勝で幕を下ろした。明治神宮大会との“秋春連覇”は、「平成の怪物」と呼ばれた松坂大輔を擁した1998年以来で、同一校が2回達成するのは史上初。快挙を成し遂げた強さの根底には、一丸となって追求してきた「負けない野球」への意識があった。 
智弁和歌山との決勝、1対1で迎えた3回に勝ち越しの2点適時二塁打を放った横浜の三番・阿部葉。優勝を引き寄せる5打数4安打3打点の活躍。主将としても、チームを力強くけん引した[写真=宮原和也]
積み重ねでつかんだ頂点
昨秋の明治神宮大会を制した横浜が、再び全国優勝を達成した。公式戦の連勝を20に伸ばし、秋春2冠に輝いた。
王者は初戦の初回から甲子園の観衆の度肝を抜いた。先発マウンドを任された織田翔希(2年)の投じた第1球がいきなり149キロと大台に迫ると、2球目は151キロ。1球カーブをはさんでの4球目に152キロを計測した。これは2年生投手としては大会最速記録。秋にスーパー1年生として騒がれた右腕が、自己最速を更新した。
織田が試合をつくり、左腕の奥村頼人(3年)につなぐのが必勝リレー。背番号『1』の奥村頼は安定感ある左腕で、今大会は14回2/3を投げて、四球は1つしか与えなかった。特に、準々決勝の西日本短大付戦では後半4イニングのマウンドを任されてパーフェクトリリーフ。ほかの投手陣も冬の間に力をつけ、前田一葵、山脇悠陽、片山大輔(いずれも3年)が甲子園のマウンドに立った。その成長ぶりに、主将で中堅手の阿部葉太(3年)も頼もしさを感じている。「秋は織田、奥村(頼)の二枚看板と言われていたんですけど、甲子園に来て山脇、前田、片山と全員が投げてくれて、自分たちも絶対守ってやろうと思っていたのでピッチャー陣には感謝しています」。
チームとして追求してきたのは「負けない野球」。堅い守備でリズムをつくって、攻撃につなげる展開を得意としている。昨秋の関東大会からセンバツ2回戦の沖縄尚学戦まですべて2点差以内の試合を制してきた。接戦を勝ち切れる理由について、村田浩明監督は「小さいことの積み重ねが大事になると言っていて、小さなものをしっかり理解してやってきている選手たちに感謝です」と話す。
対戦相手は点差以上の差を感じていたに違いない。それほど、横浜の選手のプレーはきめが細かく質が高い。準決勝では春連覇を狙った健大高崎を退け、ファイナルの舞台へ駒を進めた。
決勝の相手は智弁和歌山。互いに複数の主戦級投手を擁し打線は強力とあって、投打にハイレベルなぶつかり合いとなった。互角の立ち上がりから横浜は3回に阿部葉の2点適時二塁打で勝ち越しに成功。リードを奪うと6回には集中打で一挙6点を奪う。準決勝までの4試合中、3試合で完封勝ちを収めてきた智弁和歌山の投手陣を攻略した。

31年ぶりの春の頂点を目指した智弁和歌山。決勝では守備のミスもあり力及ばずも、最後の最後まであきらめない攻めを見せた[写真=宮原和也]
4安打3打点、2盗塁と躍動し、チームを日本一に導いた阿部葉は、試合を振り返って言う。「監督さんから『おまえは背中で引っ張ってくれ!!』と試合前に言われて、何としてもチームを優勝に導こうという思いでやってきました」。投打がかみ合い、全員でつかみ取った頂点。「ここでゴールではないと思っていますが、神宮大会が終わってから春に向けてやってきたことが報われて、すごくうれしく思います」と喜んだ。
村田監督は「横浜高校らしい攻撃、守備からリズムをつくるということを徹底してできたことが、この結果につながりました。春はまだ通過点。夏に完成したチームでまた甲子園球場に戻ってきて、スタンドの選手たちも全員一丸となってOBの方々、保護者の皆さま、学校関係者の皆さまが一枚岩となって、また夏、目標を定めて頑張りたいと思います」。
主将も指揮官も、喜んではいるものの、慢心はしていない。夏は春以上に険しい道のりが待っていることを知っているからだ。チームスローガンは『横浜1強』。夏も頂点に立って証明する。

強力打線に加え、先発の2年生右腕・織田やエース・奥村頼ら4投手の継投が機能。堅守も随所に光り、横浜が頂点に立った[写真=毛受亮介]
大会を通しては、導入から2年目を迎えた低反発バットへの対応で各校の取り組み方の違いが表れた。多かったのは、バントや機動力を駆使するチームだ。
広島商は球際に強い内野守備を武器に、昨秋の明治神宮大会で準優勝し選抜でもベスト8入りを果たした。初出場の浦和実も鍛えられた守備とつなぎの打線で準決勝に進出。変則左腕・石戸颯汰(3年)を中心に旋風を巻き起こした。
一方で、花巻東は打力強化の道を選んだ。佐々木洋監督は「飛ばなくなったバットだからこそ体づくり、食事やウエート・トレーニングにこだわっています。昔みたいに機動力野球に走ったほうがいいのかなと思うところもあるんですけど、選手の将来のことを考えるとしっかり振らせたい」と話す。今後は、よりチームカラーが分かれそうだ。
投手の高速化も目立った。横浜の織田と青天井のポテンシャルを秘める山梨学院の菰田陽生(2年)が152キロをマーク。健大高崎の石垣元気(3年)が155キロ、智弁和歌山の宮口龍斗(3年)も151キロを投じて甲子園を沸かせた。
▽決勝(3月30日) 開始12時31分 終了14時39分

[智]渡邉、中井、宮口、若井、田中-山田凜
[横]織田、片山、奥村頼、山脇-駒橋
▽三塁打 福元智
▽二塁打 阿部葉、江坂横
▽審判 大槻(球)、乗金、永井、四方(塁)
■第97回選抜高校野球大会結果 
※丸数字は延長回数
【応援団賞】
▼最優秀賞 壱岐[長崎]
▼優秀賞 日本航空石川[石川]、滋賀学園[滋賀]、東洋大姫路[兵庫]