これほどの苦難を誰が予想しただろうか。お立ち台で込み上げた涙と「ホッとした」という安堵の言葉。それは強くて優しい男の真っすぐな思い。苦しんで、苦しんで、到達した大台。その一打には、プロ入りから積み重ねてきた17年のすべてが詰まっていた。「一番思い出に残るヒット」と語った、その偉業までの道のりを振り返る。 写真=桜井ひとし、BBM 
ヒーローインタビュー後、記念ボードを手にようやく笑顔を見せた
想像を絶する重圧の中で
「長かったですし、苦しかったです」
お立ち台ではあふれる涙を止めることができなかった。「いろいろな感情が出てきて。まさか泣くとは思っていなかったんですけど。すみません」。野球で泣いた記憶はない。自分でも想像していなかったその涙を照れ笑いで振り返った。
5月24日の
日本ハム戦、満員御礼となった本拠地・
楽天モバイルで、
浅村栄斗は平成生まれでは初の通算2000本安打を達成。史上56人目、34歳6カ月での到達は歴代7位の年少記録となった。だが最初に出た言葉は「ようやく達成することができました。うれしいよりも一番はホッとしています」だった。
「2000本で泣く人なんていないんじゃないですかね」と自虐的に笑ったが、この道のりがいかに苦しかったのかを、その涙が物語っていた。
「うれしい記録のはずなのに、いつの間にか苦しいな、に変わって……しんどくなって。それからはプレッシャーをものすごく感じていました」
偉業まで残り36本と迫って開幕した今シーズン。開幕2戦目から8試合連続安打を放つなど順調にその数を減らしていき、4月22日にはもう一つの偉業、通算300本塁打を達成。その時点で残り16本とした。27日には2安打で残り9本とし、快挙は目前。周囲の期待はより膨らんだ。しかし自分に向けられる期待感はいつしか焦りへと変わる。
「残り10本を切ったあたりから重圧もありましたし、それと同時に調子も少し落ちてきてモヤモヤした気持ちはありました」。その後は自己ワーストとなる35打席ノーヒット。5月15日に残り2本としてからは18日まで13打席、快音は聞かれなかった。
「あくまで個人記録。チームの目標ではないからこそ早く終わらせてチームのために集中したかった」
だがその思いが大きくなればなるほど、バットは空を切る。「今までにない感覚だった。苦しかったですね」。
追い打ちをかけるように、「試合に出続ける」ことにこだわってきた浅村に試練が訪れる・・・
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