東京六大学リーグ戦で歴代最多8本塁打。春秋連覇で有終の美を飾り、神宮での激戦を終えた長嶋は、巨人との契約に前後して、川上哲治の自宅を訪問。「打撃の神様」が語る、ジャイアンツの一員としての覚悟、プロとしての心構えに耳を傾けた。 
川上邸を訪れた長嶋が、川上の投じるボールを受ける。バットを持つのは川上の息子さん
学生野球の延長のつもりで
編集部 まず長嶋さんに、現代青年のプロ野球に対する考え方というものから、お話を願いたいのですが。
長嶋 まあ、いまでは、僕の知っている限りの範囲の人たちは皆、プロ野球入りを進めてくれたり、激励してくれる時代ですからね。野球を知らない人でさえ、盛んになってきたプロ野球を、決して冷たく見るということは、ないと思います。
編集部 川上さんがプロ野球に入った当時に比べれば、雲泥の違いですよね。
川上 そうだな。僕がプロ野球に入ったころは『野球ゴロ』と言われたもんだ。『アイツは(プロ)野球に入るそうだ』とか言われて、大学を出て野球に入ろうものなら大変なものだった。『野球を職業にするとは何たることであるか』というような時代だったんだよ。
編集部 現在なら長嶋さんのような素質のある者は、プロ野球で、ということが、おのずから結論になりますね。
川上 だと思うな。いまは、十分、立派な職業であると世間も認めているんだから。ただ競争は激しいし、肉体は使うけれども、自分の好きな道で生活をやっていくということは、こんないいことはないと思う幸せだと思う。
長嶋 そう思いますね。
編集部 川上さん、特に1年目に気を付けなければならないということは、どんなことでしょう。
川上 あまり、ゴチャゴチャ考えないことが一番じゃないかな。プロに入ったから、いろいろ理屈を考えながらやらないかんということではなくて、自らが持っているものを、一生懸命にそのままやっていくということが一番いいと思う。それからここで自分は打たないかんとか、なんとかせないかんというような、(余計な)意識にとらわれずにやることだ。
長嶋 僕もそう思っています。少しでも早くプロの水に溶け込んで、自分の力を発揮できるようにやっていこうと思っているんです。
編集部 学生野球の延長という気持ちで、プロ野球に入るわけですね。
川上 それで結構。野球は、プロでも学生でも精神は同じなんだよ。それで生活を支えているか、そうでないかということが違うだけでね。自分が一生懸命にやって、楽しくやり、努力するのがスポーツ。僕ら、プロ野球の選手だから、観衆が見ているということを意識するけれども、それよりも、自分が一生懸命やって、自分で楽しんでいるという感じのほうが強いな。だからこそ、幸せだと思うんだ。
「ファイト」を補う選手に
編集部 これから長嶋さんのキャンプインまで2カ月。プロ1年目のキャンプインは難しいと思うのですが。
川上 そういうことを緊張して考えることはないと思うな。自然に入ってくればいいんだ。学生野球も終わって、いまは楽しいときなんだから・・・
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