大粒の涙が右腕の頬を伝った。9勝目を挙げてから、47日ぶりの白星に思いが込み上げてきた。「ここ2カ月は、チームに本当に申し訳なかった」。8月15日の
ロッテ戦(QVCマリン)。7回一死から加藤に右前打を浴びるまで完全投球。終わってみれば、打者28人を1安打9奪三振。「準完全」の無四球完封。球団史上初の新人からの2年連続2ケタ勝利に到達した。シーズンが終わってみれば、チームは4年ぶりの最下位。沈む船の中にあった、かすかな輝きだった。
もがき苦しんだからこその涙だった。夏前の交流戦ではプロ野球記録の4完封をしながら、7月5日の
ソフトバンク戦から先発で5度も足踏み。5度の先発で計24失点。さらに中継ぎに配置転換されて2度の登板を挟んでつかんだ、大きな1勝だった。
1つのきっかけで壁を乗り越えた。「体力的にも技術的にも(理想を)追い求め過ぎて自滅した」。結果が残せずに苦しむ一方で、周りを見渡せば、先輩の
ヤンキース・
田中将大、後輩の釜田の姿が頭をよぎった。ケガで投げたくても投げられない人たちがいる。マウンドに立てる喜びを思い出し、それを投球に込めた。
それでも、シーズンを振り返れば悔いは残る。シーズン14勝。最多奪三振のタイトルは手にしたが、1年目の15勝に及ばず、最多勝争いでも
オリックス・
金子千尋に屈した。今季限りでユニフォームを脱いだ星野監督のラストゲームも8回1失点ながら、勝利は届けられなかった。この2年間ずっと「3年やってこそエース」と言われ続けてきた。来年がその3年目。流した涙を忘れることなく、さらなる高みに上り詰める。