「アライバ」として一時代を築いた
荒木雅博二軍内野守備走塁コーチは、現役時代、「この世界では自分のミスが投手の人生を狂わせることがある」と肝に銘じていた。逆もまた然り。
清水達也がプロ初先発初勝利を挙げた5月12日の
阪神戦(甲子園)。2年目右腕の人生を開いたと言っても過言ではないプレーがあった。
1点リードの4回無死一、二塁。木浪の打球が右中間を襲った。抜ければ同点、いや一気に逆転。ベンチの
与田剛監督も「抜けたかな」と覚悟した。次の瞬間、右から青い影が一閃。地に着く前、白球をつかみ捕ったのは、平田良介だった。
「正直、追いつけるとは思わなかった」。それでも追いついた。抜群の打球判断に瞬発力、トップスピードを緩めずに捕球に入る球際の強さ。外野手に必要な要素を兼ね備える平田だからこそ、成し得た。
工藤隆人外野守備走塁コーチは「打球に対して一直線に最短距離で入った。スピードも素晴らしい。誰でもできるものじゃない」とうなった。
「日々の練習の成果です。そして一生懸命投げている清水の姿が、自分の守備に結び付いたと思います」。心憎いばかりの言葉で平田はあの場面を振り返った。この日は母の日。ヒーローインタビューに呼ばれた清水は「先輩方に攻守で助けていただいた。本当に感謝しています」と敬意を表し、スタンドの母・百合野さんに「産んでくれてありがとう」と叫んだ。平田のプレーは、感動の一幕も助演したのだった。
写真=BBM