「疾風に勁草を知る」という言葉は、女子マラソンのシドニーオリンピックの金メダリスト・高橋尚子さんが座右の銘としたことで知られた。人間の強弱は苦境でこそ試されるという意味だが、新型コロナウイルスにより球界全体が難しい調整を強いられる中で、今永昇太は実に頼もしい振る舞いを見せた。現在も集団感染防止のため練習場所や使用時間が制限されているが「この状況でも何かできることがあるという意識に変えられた」と自身を成長させる機会と捉えている。
3月上旬に首脳陣から2年連続となる開幕投手の座を伝えられた。キャンプから順調な調整ステップを踏み、スケジュール通りなら開幕前の最終登板だった3月13日の
日本ハム戦(札幌ドーム)で4回無失点と完璧な仕上がりを披露した。
逆算してピークを合わせてきた矢先の延期は当然大きなショックを伴ったが、この登板後にはもう「普段のシーズン中にはできないランニングやウエート・トレーニングの強度を上げるなど。維持より強化に充てたい」と気持ちを前に向かせた。この姿勢に1歳下の
濱口遥大や
佐野恵太らも続き、エース左腕の影響力が際立つ形となった。
5年目の今季は新星ベイスターズを先頭に立って引っ張り、東京五輪での活躍も期待されていた。大きな目標が遠のく難しさにも「侍ジャパンは、いろいろなことに順応、対応することが求められるところ。この1年間をどう過ごすかが見られると思う」と言い、今年の経験を人間的な成長につなげようと励む。政治への関心や料理もその一つで、タイ料理のカオマンガイは「ハマスタで出店したら冠商品になる」出来栄えだそうだ。
写真=井田新輔