9月24日の
ロッテ戦(
楽天生命パーク)。プロ8年目の捕手・
下妻貴寛が、カクテル光線に照らされ、笑っていた。プロで初めてのヒーローインタビュー。プロ1号の感触を問われると「フェンスを越えてくれと思っていた。本当に素直にうれしいです」と白い歯を見せた。
会心の一発だった。2回、岩下の直球をフルスイング。ライナー性の打球が、左翼席前列で弾んだ。身長186センチの大型捕手が、自慢のパワーを見せつけた。
昨季まで7年間での出場試合数は、わずか13。遠投110メートルの強肩と守備力を評価され、2013年ドラフト4位で入団。故
星野仙一監督からも高い評価を受けた逸材だったが、ケガにも悩まされ、その能力を発揮することはかなわなかった。
18年春に右肩関節唇を損傷。「ボールを投げると、骨と骨がぶつかる感じ」。症状は改善せず、同年オフには育成契約に降格。さらに19年の春季キャンプ中、再び右肩を痛めた。「僕にとっては(支配下への)最終テスト。そこでまた痛みが出て、野球人生が終わったと思った」。
それでもさまざまな接骨院に通い、球団のトレーナーの支えもあって症状が改善。19年5月にはBCリーグの埼玉武蔵へ派遣され、地道に経験を積んだ。「昨年の秋から見ているが、いろいろとそつなくできる。ここが欠点というのがない」と
光山英和一軍バッテリー兼守備戦略コーチ。2月に支配下復帰を果たした。
9月29日の時点で、9試合でスタメンマスクをかぶった。「今年は少しずつ貢献できている。そういうときに優勝したい」。苦労人の一軍でのストーリーはまだ始まったばかり。ケガを乗り越え、「下妻物語」の幕が上がった。
写真=BBM