三十路となっても飾らない。伏見寅威は、ありのままに生きる。ベンチでも、試合前練習でも、年齢順に並ぶことの多いウオーミングアップ中でも、伏見は必ず最前列にいる。
「気持ちはずっと変わりませんね。一軍の試合に出始めたときから。あのころの気持ちを忘れてはいけないので。一・五軍の選手だったし、なんとか一軍に残るために最前列で元気を出してました。習慣というか、自分の中では何も変わってない」
声で、姿勢で引っ張る。
「今は若い選手が多いんでね。年齢が上だから、若手に『声を出せ』というのは簡単。でも、自分から行動できる選手でないと、とは思う。若手に『寅威さんが元気出してるから、自分も』と思ってもらえたらいいなって。自分では、あのころの継続だけど、その意味合いが変わってきましたね」
伏見の心がけが、チームを前に向かせている。
若手投手からの信頼も厚い。22歳右腕の
山本由伸からは「寅威さんはいろいろ(状態を)見て、配球を考えてくれる。一筋縄ではいかないぞ、と言ってくれたりもします」。19歳左腕の
宮城大弥は「カーブの中でも、球速差を使うことを教えてもらいました。いつも勉強になります」。
試合中のブルペンにも背番号23は向かう。「確認事項を打ち合わせ。何も話さずにサインを出されても『ん? なんで?』となる。一言、簡潔に伝えるだけで、変わってくる」。
2019年6月に左アキレス腱(けん)断裂の大けがを負ったが「絶対、グラウンドに戻るんだ」と誓った、あの日があるから、大きな声も張れる。
写真=BBM