深刻な得点力不足に陥る中、
中日は新たな戦力が出てくるか否かがチームの命運を握る。そして迎えた8月17日の
広島戦(バンテリン)。与田監督が「二番・左翼」で今季初めてスタメンに書き込んだのは、6年目の渡辺だった。
2点リードで迎えた8回。
ケムナ誠の直球だった。高く上げた右足が着地すると、振り下ろしたバットが白球をとらえる。舞い上がった打球は右翼席へ吸い込まれた。代名詞でもある「一本足打法」で放ったプロ第1号。
「球場が広いので無事に入って良かった」。1打席目には
森下暢仁から先制適時打も放っていた。連敗ストップに大きく貢献し笑顔を見せた。
一本足打法との出会いは中学3年生。同じ団地に住んでいたセ・リーグ事務局長を務めた渋沢良一さんが紹介してくれたのが
荒川博さんだった。
ソフトバンク王貞治会長と二人三脚で打撃をつくりあげた名伯楽。身ぶり手ぶりの指導を受け、言われるがままに渡辺はバットを振った。
「足を上げてポイントを前にして打ったら、ボールは飛ぶし、何だろうと思った」。世界が一変した。そこから週2、3回ほど荒川道場に通った。荒川さんは「将来プロに入ると思ったよ。バットを振るキレ味が良かった」と語っている。
その師匠は2016年に86歳でこの世を去った。渡辺は「(1号は)『遅いよ』って言うでしょうね」としみじみと語る。その荒川さんは渡辺のプロ入りにあたり、残している言葉がある。「僕は22歳のときの王も見てるけど、見劣りしないよ」。恩返しは始まったばかりだ。
写真=BBM