忘れかけていた感触だった。中村奨成は、一塁を回ったところで力強く右拳を突き上げた。
5月13日の
巨人戦(マツダ広島)、1点リードの2回二死から
戸郷翔征に痛烈な一発を浴びせた。2021年7月7日の
DeNA戦(マツダ広島)以来1406日ぶりのプロ3号だった。
「ああいう歓声とか聞いて、久しぶりの一発がマツダで打てたのはすごく良かった」と、何より本拠地での4年ぶりアーチを喜んだ。
広島一筋で四半世紀を生きてきた。広陵高時代の夏の甲子園で新記録の1大会6本塁打を放った地元のスター。17年秋のドラフト会議で
中日と1位指名で2球団競合の末、カープが交渉権を獲得した。
当時は「ホッとした気持ちと、さらにやってやろうという気持ち」と相思相愛が実る形で入団。周囲は“将来の正捕手”として大きな期待を寄せたが、甘くはなかった。4年目の21年にプロ1号を含む2本塁打を放ったが、次の1本までさらに4年を要した。
昨季までの7年間で、通算わずか39安打。まさに首の皮一枚という状況だったが、今季すでに21年の自己最多15安打はクリア。
5戦連続のマルチ安打をマークした際には、
新井貴浩監督が「奨成、キテルね」と絶賛を送る日々が続いた。
6年目を終えた23年オフに捕手から外野手登録、背番号も22から96に変更となり、今年が8年目。26歳ともう若くない。昨オフ、鈴木清明球団本部長は「お前のポテンシャルにもう1年、賭けてみる」と契約を更改した。
試合を重ねながら“一進一退”の結果が続くが、目の前にチャンスはある。プロ野球人生を賭けて、ここから意地の見せどころだ。
写真=井沢雄一郎