ここ一番で、驚異の脚力を発揮した。
羽月隆太郎は初球に頭から二塁へ、2球目に足から三塁へ、そして二死からの初球に弾むような足取りで本塁を駆け抜けた。
6月6日の
西武戦(マツダ広島)、同点の8回一死から四球で出塁した
坂倉将吾の代走として、相手がわずか5球を投げる間に、盗塁2つ、最後は捕逸で、無安打で決勝のホームを踏んだ。
「年に1回、できるかできないかの走塁ができた」
自画自賛の快走で、チームに貴重な勝利をもたらした。
相手は初対戦の西武・ウィンゲンターだった。走者を背負っての投球を一度も見ることなく、果敢にスタートを切った。
「映像を見ることもなかった。初めてだったけど、早い段階で仕掛けようと思って思いきりいった」
三盗は、捕手・
炭谷銀仁朗が送球できないほど完璧だった。
足のスペシャリストとして、相手バッテリーの警戒をかいくぐって盗塁を重ねている。
一昨年の14盗塁を自己最多に、昨季も12盗塁。今季すでに交流戦2カード終了時点でリーグ1位(
阪神・
近本光司)に4差の9盗塁という量産ぶり。代走要員でありながら、盗塁王を狙える位置にいる。
9盗塁のうち4つは、スタメン3試合でマークした。
新井貴浩監督は「打撃もそうだけど、昨年から練習に取り組む姿勢がガラッと変わった」と、25歳の韋駄天の成長を感じ取る。
もちろん「スタメンで出たい思いは強い」と、代走だけに甘んじるつもりはないが「葛藤はあるけど、チームとして動いている。与えられた役割を全うするだけ」。
どんな立場であっても、試合の流れを一変させる走塁で勝利を呼び込んでいく。
写真=井沢雄一郎