水上滝太郎(みなかみたきたろう)という作家を知る人は、もうほとんどいないだろうが、明治生命(現明治安田生命)の創業者の四男で、会社の経営にも携わるのだが、慶大を出てハー
バード大に留学という経歴の持ち主で、仕事のかたわら小説、随筆を書いた。慶応の普通部(現慶應義塾高校)では、都下にその名の知られた野球少年だったそうな。
その水上が90年ほど前のある随筆の中で「赤門友情、三田師弟、早稲田は数で押す」という巧みな表現を使っている。これは今でも立派に通用するなあ、と苦笑した。東大は夏目漱石の弟子たち、白樺派の人たちを思い出せば分かるように友情=横の関係で結びつく。慶応は、あの三田会の強固なつながりに象徴されるように、師弟=先輩後輩関係がすべて。早稲田は説明無用だろうが、徒手空拳の文なしたちは、とにかく数で相手を圧倒しようというワケだ。
90年前と言えば、東京六大学野球連盟は、この秋のシーズンで90周年となる。今春は「数で押す」早大が優勝したが(徒手空拳どころか、あれだけ有名校から集めたら勝ちますよ)、秋も勝ってしまったら面白くも何ともない。筆者は、春にようやく連敗に終止符を打った東大に期待したい。94連敗もしたら、この学年(4年生)の選手たちの友情は、また格別なものになると思う。社会人になっても「オレたちは、よく耐えたよなあ」のひと言でガッチリまとまるのではないか。
その友情のまとまりで、この秋は戦ってほしい。「東大を優勝させよう会」(冷泉公裕会長)の会報「淡青ふぁん」159号の見出しは「勝った!勝った!東大連敗を94で止める」。1勝「勝った」だけなのだから「勝った、勝った」ではない。だから秋は、勝ち点を挙げなくては。
写真は80年春の早大2回戦に勝利した東大ナイン。4対3、3対1の連勝。早大戦連勝は東大史上初の快挙。このころは、学生応援席はいつも満員だった。