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黒田博樹は「1カ月ごとの契約ならいいのに」と1年投げ切る苦しさを表現したが、同期の澤崎俊和は「あと1年欲しい」と願い続けたはずだ

 

文=平野重治


 広島黒田博樹投手が現役引退を発表した翌日の、10月19日のスポーツ各紙には、黒田の引退を惜しむ、プロ野球の現役、OBたちの声であふれていたが、最も印象に残ったのは、黒田と長年親交のある中日友利結投手コーチのものだった。

「(前略)何年前のオフかは忘れたけど『1カ月ごとの契約ならいいのに』と言っていた。1年間ローテを守れるか、オフに悩むんだ、と。それが印象に残っている」(東京発行日刊スポーツ10月19日付)

 黒田のようなメジャーでもエース級の実力の投手には、1年どころか活躍を何年も期待される、というか「高い金払ってるのだから仕事をしろ」という圧力がかかる。「1カ月ごとの契約……」という言葉は、「1カ月しか全力で投げ抜くことはできない」という悲痛な叫びだった。

 しかし、フツーのプロ野球選手の場合は「1年でいいからやりたい」と、黒田とはまるで方向が反対の悲痛な叫びとなる。

 いまは、複数年契約やインセンティブが当たり前になっているが、昔はどんな大選手でも基本的に1年契約。現在でもスター選手以外は1年契約である。ということは、1年ごとに「来年のオレはどうなるんだろう」という不安に苛まれるワケである。「1年はアッという間に過ぎてしまう。1年契約は短すぎる」これが平均的プロ野球選手の偽らざる気持ちだろう。だから「もう1年命長らえたい」と必死に願うのだ。

 いま、プロ野球選手の平均在籍年数は7年と言われる。日米で20シーズンにわたって投げまくった黒田は、別世界の住人なのである。

 写真は97年の広島の新人投手のツーショット。黒田(右、専大)の左はドラフト1位の澤崎俊和(青学大)。澤崎はこの年12勝を挙げて新人王。ドラフト2位の黒田も規定投球回数に達して6勝。4完投はチーム最多。「広島の戦略は大当たり」と言われたものだ。

 しかし、黒田は順調に伸びて行ったが、澤崎は98年にわずか1勝。99年も1勝。結局、05年の引退まで24勝しかできなかった。「あと1年でいいから」と思い続けたことだろう。澤崎はいま広島二軍投手コーチ。この苦しい経験は必ず生きるハズだ。
おんりい・いえすたでい

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過去の写真から野球の歴史を振り返る読み物。

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