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山崎夏生のルール教室

マウンド上で指をペロリはNG 厳格に規定される反則投球/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

マウンドでの投手の仕草は常にチェックされている[写真=Getty Images]


MLBブルージェイズの菊池雄星投手が現地時間4月19日のレッドソックス戦に先発。2回走者なし、カウント3-2からプレートに足をかけ、指を舐(な)めた瞬間に一塁審判から「ボール」を宣告され、投球前にもかかわらず、四球となりました。これはなぜでしょう?

 公認野球規則6.02(C)投手の禁止事項(1)に抵触するからです。マウンド近辺では投手は絶対に投球する手を口や唇に触れてはなりません。本項に違反した場合にはまず球審はボール(球)を交換させ、警告を与えます。さらに違反した場合には1ボールが宣告されます。菊池投手は警告後の、無意識な指舐めだったのでしょう。なお、走者がいた場合にはボークとなります。

 なぜ、この行為が禁じられるかというとスピットボール(ボールに唾液を塗ったもの)とみなされるからです。この類ではほかにシャインボール(摩擦してすべすべにする)、マッドボール(泥をなすりつける)、エメリーボール(異物でざらざらにする)などがあります。ボールにこういった加工をすると指との摩擦係数が極端に変化しますし、球筋の空気抵抗にも大きな差が出て異常な曲がり方をするようになるのです。日本人投手ではこういった不正はあまり見かけませんが、外国人投手の場合には油断がなりません。

 もう20年以上も前のことですが、ウォーレン投手(ブライアン・ウォーレン、元ロッテ)の投げるボールが異常な曲がり方をする、と疑惑を持たれたことがあります。実際に交換したボールには傷がついていることもたびたびあり、球審の私に厳重なチェックをするよう相手チームからの要請がありました。

 ある試合では4度もマウンドに駆け寄り、体やグラブのどこかに異物をつけていないかを調べましたが、異常は見つかりませんでした。最終回を抑え切った興奮状態で、ウォーレン投手がどうだとばかりに相手ベンチに中指を立て、雄叫びを上げた事件を覚えている方も多いでしょう。当然、退場にすべき行為でしたが審判団はすでにグラウンドから引き揚げており、後味の悪さだけが残りました。こういった不正行為や退場案件は現場での絶対的証拠が必要であり、疑惑や試合後では対応できないのが実情です。

 ちなみに投手はいかなる異物も所持してはなりませんから、汗拭きタオルで顔をぬぐうことも禁止事項です。一世を風靡(ふうび)した「ハンカチ王子」も実はルール違反だったのですが、甲子園のマウンド上で見せた、あの爽やかさがそれを忘れさせてしまったのかもしれません。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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