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山崎夏生のルール教室

審判に打球が当たったら石ころ? 石ころじゃない?/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

82年の日本シリーズで村田一塁審判に打球が当たるもインプレー。シリーズの流れを変えた


5月18日、神宮球場でのヤクルト阪神の試合で山田哲人選手(ヤクルト)が放った強烈なライナーが西本欣司三塁審判の太腿を直撃しました。審判は一度は倒れ込みましたが、すぐに立ち上がって「ファウル」をコールしました。もしもフェアゾーンでの打球だったならばインプレーでしょうか? 「審判は石ころだ」という表現をよく聞きます。

 これは審判が打球に当たった場所によって異なります。一塁、三塁の審判は、必ず野手の後方に立っており、フェアゾーンで打球に当たればインプレー、ファウルゾーンならばボールデッドです。要は内野手を通過後の打球でしたら審判は石ころと同様の扱いになります。これは公認野球規則5.05(b)(4)「(前段略)内野手(投手を除く)をいったん通過するか、または野手(投手を含む)に触れたフェアボールが審判員に触れた場合にはボールインプレイである」と明記されています。

 この認識が広まったのは1982年の西武中日の日本シリーズ第5戦(西武)でした。0対0の3回表、一塁線への打球に対して村田康一審判は避け切れずにボールが体に当たり、打球は二塁方向に転がりました。それをすぐに拾い上げた二塁手が三塁へ送球し、オーバーランしていた走者が憤死というプレーがあったのです。もしも打球が審判に当たらなければ二塁打で得点し、シリーズの流れを変えたとも言われました。

 かつては一、三塁の審判はラインをまたいで立っていましたが、今はラインの外側に立ち、ベースをよぎる打球に対してはのぞき込むように判定しています。これは万が一、打球に触れてしまったとしても、ほとんどがファウルになるからです。

 90年代から二塁審判は走者がいるときには内野内に位置するようになりました。では、そこで審判に打球が当たった場合にはどうなるのか? それは5.06(c)(6)「(前段略)内野手(投手を除く)を通過していないフェアボールが、審判員に触れた場合」には打者には安打が記録され、ボールデッドとなると記されています。直近では2015年6月2日に横浜スタジアム(DeNAソフトバンク)で同様のプレーが起き、審判団は適切に処置しました。しかし、この日の解説者も実況アナウンサーもルールを熟知していなかったようで「審判は石ころだ、ルールの適用ミスだ!」と糾弾し、大いに憤慨したものです。審判も喜怒哀楽に涙し、切れば血の出る生身の「人間」であります。フィールド内には動き回る「石ころ」など断じて転がっていません。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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