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山崎夏生のルール教室

伝統の一戦でのダブルリクエスト 適用されたボナファイドとは?/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

8月3日の巨人阪神戦の7回表、矢野監督にプレーの経緯を伝える木内球審


 8月3日の巨人対阪神戦(東京ドーム)、7回一死一塁からの内野ゴロで、二塁でのアウトの判定を巡り、両チームからリクエストという珍しいシーンがありました。

 阪神・矢野燿大監督はセーフではないか? 巨人・原辰徳監督は一塁走者の守備妨害ではないか? ということだったようです。結果は一塁走者のアウトの判定は変わらず、悠々と一塁に達していた打者走者にもアウトが宣告されました。責任審判の木内九二生球審は「ボナファイドルール」という言葉を使い場内放送をしましたが、どんな意味なのでしょうか?


 まずは「ボナファイド」から説明いたします。語源はラテン語で「誠実・正真正銘・本物」といった意味合いで、英語では「bonafide」と表記されます。このケースでは一塁走者だった熊谷敬宥選手(阪神)が『正しいスライディング』をせずに、二塁手の吉川尚輝選手(巨人)と接触しました。そこで一塁への転送プレーを妨げられたので6.01(j)「併殺を試みる塁へのスライディング」の条項に抵触したと判断されたのです。

 正しいスライディングとは「(1)塁に到達する前にスライディングを始める(2)手や足で塁に到達する(3)スライディング終了後は塁上にとどまる(4)走路を変更することなく塁に滑り込む」といった4カ条です。今回は二塁を飛び越して接触したため(3)に違反したとみなされたのでしょう。

二塁に滑り込んだ阪神・熊谷、塁上で巨人・吉川と接触した


 かつては併殺崩しのために走者は猛然と野手をめがけてスライディングするのは当たり前でしたし、それをまた華麗に避けてのジャンピングスローなどのプレーはプロ野球の醍醐味でもありました。本塁での衝突プレーなども然りでした。しかし、その危険なプレーの代償は大きく内野手や捕手のみならず、走者も大ケガをする結末となることがあり問題視されました。まずは6.01(i)「本塁での衝突プレイ」の禁止、いわゆるコリジョンルールが制定され、その後に同(j)のスライディングの文言も書き加えられたのです。根底には野球は格闘技ではなく、危険な要素のあるプレーは極力、排除しようという気運がスポーツ界全体として高まっていることがあります。

 今回のケースでは、仮に二塁での封殺プレーがセーフだったと覆ったとしても、このボナファイドルールが適用されれば一塁走者は再度アウトとなります。もちろん併殺の対象となっていた打者走者も自動的にアウトとなりますから、結果チームにとってこのようなスライディングは大きな痛手となります。危険なプレーを避ける意識付けは徹底すべきでしょう。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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