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山崎夏生のルール教室

帰塁時の走塁について 戻り方によっては守備妨害?/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

ヘルメットに当たって跳ねた送球を三塁手が目で追っている。得点に絡むシーンでもあるだけに、審判の判断も難しい


今夏の甲子園でのある試合のこと。場面は一死一、三塁からのスクイズプレーでしたが、打者が空振りしたため飛び出した三塁走者があわてて三塁へ戻ろうとしました。ところが捕手からの送球が走者のヘルメットに当たり、外野を転々とする間に三塁走者は生還しました。走者は三塁線上ではなく、ややフェア地域内を走っていました。これは守備妨害ではないのでしょうか?

 そのシーンはちょうどテレビで観ていましたが、微妙な判断でしたね。守備側のチームも球審へ質問に出ていました。まず、「走路(ベースパス)」ですが一般に塁間を結ぶ直線だと思われている方もいますが、実は走者と進塁あるいは帰塁する塁を結ぶ線のことを指します。そして走者に対してプレーが行われていないならば、走者はフィールド内のどこを走ってもいいのです。例えば内野ゴロならば打者は一塁をめがけて一直線に走るでしょうし、外野への打球ならば二塁を狙って大きくファウルゾーンにふくらんで走ります。二塁走者が本塁を狙うときも然りでしょう。

 走路が重視されるのは今回の三塁への帰塁のようにやや不自然に見える走塁、あるいは挟殺プレーになったときに野手のタッグを避けようと3フィートを超えるラインアウトのケースです。特例として一塁線後半部にあるスリーフットレーンがありますが、これはいずれ説明いたしましょう。

 かつてはタッグプレーでタイミング的にアウトになりそうならば捕球体勢に入っている野手の位置を見て、その送球ラインに入れ、という戦術が確かにありました。送球に対する妨害は故意でなければナッシング(成り行き)という原則があるからです。これは公認野球規則5.09b(3)及び6.01a(10)に「走者が送球を故意に妨げた場合」として明記されています。よって、送球が走者に当たってもそれが審判から故意とみなされなければやったほうが得、という考え方です。とはいえ、これは非常に危険なプレーですし当然守備妨害とは紙一重です。

 実際に1980年代から90年代のプロ野球では、こうしたプレーが数多くあり、守備妨害を適用し走者をアウトとした実例は幾度もあります。いつしかこういった走塁はフェアではないし、危険も伴うということであまり見られなくなりました。

 今回は故意的なものではない、という判断でしたが、できればこのようなケースでは走者は誤解を招かぬよう、きちんと走路上を走って戻るように意識をしてもらいたいですね。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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