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山崎夏生のルール教室

振ったか振らないかの判定 リクエストができないのはなぜ?/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

先制された直後の好機だったこともあり、原口は一塁塁審の判定を受け白井球審へ目をやった


 セ・リーグCSファイナルステージ第1戦のヤクルト阪神戦(神宮)の2回表、無死二塁から原口文仁選手(阪神)は粘りに粘ってフルカウントからの13球目、アウトローの投球をハーフスイングで見送り、四球かと思われました。ところが一塁審判の判定はスイングで三振となり、追撃の芽を絶たれました。振っていないようにも見えたのですが、なぜリクエストができないのでしょうか?

 審判の判定で最も難しいのがこのハーフスイングとボークと言われています。これは「事実」を見るのではなく、それをどう「判断」するかが審判に委ねられるからです。実際にボークは13項目もありますが、具体的な動きや動画での説明は一切ルールブックには書かれていませんし、ハーフスイングにしても定義そのものがありません。そもそもスイングしたか否かであり、ハーフスイング自体が矛盾を含む言葉なのです。

 リクエストの対象になるのは「事実」の確認です。ですからフェンス際の打球や各塁でのアウト・セーフ、触塁、追い越し、死球などはリプレイでの検証は可能です。しかし「判断」は機械の目では不可能なのです。よって守備妨害や走塁妨害、投球判定などもこのボークやハーフスイングと同様、リクエストの対象外となります。ここにまで対象を広げてしまうと1試合で500近くある判定のすべてに審判の判断が不要となってしまいます。リクエスト制度のある野球とない野球では異質の競技ともなります。

 では、どうしたらその「判断」に統一性や整合性を持たせることができるか。これは各審判の感覚の平均値からいかに逸脱しないか、ということに尽きます。審判とて生身の人間ですからそれぞれに微妙な判定基準のズレ、いわゆる「クセ」があるものです。それが一定の許容範囲内に収まっていれば大きな不満も出ないでしょう。そのためにも審判員はプロアマ問わずに各組織内でお互いの判定基準を勉強し合う必要性があります。当然ですが、試合後の反省会の大きなテーマとなりますし、審判員の必修科目でもあります。

 ちなみにハーフスイングの判断では、人間の目にはプレーの最終形、つまり振り戻したバットの位置が強く残るものです。ところが機械の目は振り出したバットの最前の瞬間位置を的確にとらえています。よって審判は「どちらかな?」と迷ったならば「スイング!」とする傾向にはあります。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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