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山崎夏生のルール教室

三塁到達後のボールデッド 得点にならなかったのはなぜ?/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

ホームイン時点ですでに土山球審は佐野皓を三塁へ戻すジャッジを下していた


 日本シリーズ第2戦は延長12回、3対3での引き分けという大熱戦でした。この試合の12回表二死二塁から木澤尚文投手(ヤクルト)が暴投し、ボールは一塁側ベンチ前を転々としました。これを見た二塁走者の佐野皓大選手(オリックス)は一気に本塁を陥れましたが、ボールは一塁側ベンチに入りました。その瞬間には二塁走者はすでに三塁へ達していたように見えたのですが、この場合は得点ではないのでしょうか?

 このプレーの直後、土山剛弘球審は即時に「タイム」をかけ生還した走者を三塁に戻しました。もちろん大正解です。公認野球規則5.06(b).4(H)には「打者に対する投手の投球、または投手板上から走者をアウトにしようと試みた送球が、スタンドまたはベンチに入った場合」にはボールデッドとなり、1個の進塁が与えられると明記されています。このときの進塁の起点は投手の投球当時となります。ですから暴投がベンチ内に入った瞬間に走者が次塁に達していたかどうかは無関係なのです。ただし、この転がっているボールを捕手やほかの野手が蹴ってしまったために入ったならば2個の進塁となります。

 通常の野手の送球でしたらボールデッドゾーン内に入れば2個の進塁が与えられるのですが、投手だけは特別だ、ということですね。

 投球と同様にけん制球にしても然りです。よってけん制球が悪送球になったときには、それがプレート上からか、軸足を外してから投じられたのかをしっかりと見極めなければなりません。前者ならば投手ですから1個、後者ならば投手ではなく野手の送球ですから2個の進塁となります。

 よく勘違いされるのは、悪送球がボールデッドゾーン内に入ったときの走者の進塁の起点です。これはボールが入った瞬間ではなく、野手から投じられた瞬間。そのときに走者が次塁に達していたか否か、審判は周辺視力を生かし瞬時に判断しなければなりません。

 また、投球当時とは投手がプレート上にいる状態ではなく、打者に対して投球動作を起こしたその瞬間を指します。ですから一塁走者の盗塁に気付かず、走者が二塁に達してから投球動作を起こしたとしたならば、進塁の起点は二塁となるのです。ありえないだろ? と思われるかもしれませんが、実は過去にこうしたプレーが実際にあったからこそ定義化されたルールなのです。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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