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山崎夏生のルール教室

大混乱の新球場問題 元審判員として感じたこととは/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

建設段階でのエスコンフィールド[写真=北海道日本ハムファイターズ]


 来春にオープンする日本ハムの新本拠地エスコンフィールドの本塁からバックネットまでの距離が規定の距離(60フィート)に満たずに大問題となりました。来季の開催は暫定的に認められ、その後に改修するということで一件落着となったのですが、なぜ95パーセントも完成した時点でこのようなことになってしまったのでしょうか?

 この件が発覚したとき、率直な感想を言うならば「何を今さら?」でした。2018年に新球場の建設を発表し、その進捗状況や設計図面は理事会に提示されていたはずです。3月にはメディアに向けての内覧会も開かれ、観客とプレーヤーの距離が近いことがアピールポイントでした。つまり従来よりも本塁後方のファウルエリアが狭いことは周知の事実と思われていたのに、です。

 混乱を招いた要因は3つあります。まずは日本の「公認野球規則」とMLBの「Official Baseball Rules」(OBR)は同じではない、ということ。OBRを翻訳したものを各国の野球事情により改訂し、それがその国の野球規則となっています。2.01競技場の設定・付記(a)の条項でOBRでは「望ましい」と表現されている単語(recommended)を、日本では「必要とする」と訳しました。

 またその設計を請け負ったのはMLBの球場を数多く作った実績を持つアメリカの会社であったこと。そして日本ハム球団が理事会への報告や確認・了承を正式に得ていなかったことなどが考えられます。

 とはいえ、以下は私見ですがこれが野球の本質をゆがめるような問題でしょうか? ネット裏や内野席には十分な防球ネットが張り巡らされていますし、安全上の問題はないと思います。実際MLBの本拠地30球場で規定どおりなのは2球場のみです。当然ですが、同じ球場で戦うのですから有利不利もなし。また本塁打を出やすくするためにラッキーゾーンやホームランテラスなどを作ってきた歴史もありますし、より至近距離で楽しんでもらおうと多くの球場でファウルゾーンに観客席を増設しています。ファンも喜ぶし球団の増収にもつながり、なんらデメリットはないように思います。

 ルールだから守れ、というのも正論ですが、ならばルールを変えようというのも正論。あえて言うならばたった5文字を変えることと、また何億円もの費用をかけ改修しファンを落胆させること、どちらが野球界のメリットとなるでしょうか? 球団へのペナルティーは別の方法があると思います。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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