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山崎夏生のルール教室

審判員にとってもキャンプは“仕込みの時期”/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

開幕前はとにかく投球を見ることに集中する


【問】プロ野球のキャンプには審判団も同行しているのですね。スポーツニュースなどを見るとブルペンでの元気なコールが聞こえますが、ほかにどんな練習をしているのでしょうか。ルールの勉強などもするのですか?

【答】もちろんです。選手同様、審判もこの時期は長い公式戦に備えての仕込みの時期ですから、強靭(きょうじん)な体力とルール知識、確かな技術を磨き上げる日々となります。

 今季のNPB現役審判員(育成を含む)は53人で、4〜5人クルーに分けられて12球団に派遣されます。選手同様2月1日からのキャンプ開始です。審判長と指導員4人は各キャンプ地を巡回し、主に球団への改正ルールの説明や若手指導に当たります。

 まずは9時半ごろに球場入りし、サブグラウンドや隣接する陸上競技場などでたっぷり1時間ほどの走り込みです。時には4時間以上も立ちっぱなしの仕事ですから、瞬発系よりも持久系の体力が求められます。それが終わるとユニフォームに着替えてブルペンでの投球判定。ここで大切なのは圧倒的な「量」です。もちろん「質」も大切ですが、基礎を学ぶべき段階では「百」や「千」ではなく「万」の単位の練習量が必要なのです。ことストライクゾーンの安定度に関しては見た投球数に比例する、と断言します。開幕までに1万球を見ること、これが目標です。

 午後からはフィールド内での実戦練習となります。シート打撃や紅白戦で各塁に立ち、打球判断やクロスプレーでの試合勘を磨き、ポジショニングの研究などもします。ここで大切なのは監督やコーチ、選手らとのコミュニケーション。公式戦中の私語談笑は厳禁ですが、キャンプは練習の場ですのでお互いに忌憚(きたん)のない意見を出し合い理解を深めます。ボークの見解やストライクゾーン、紙一重の守備妨害や走塁妨害の判断基準などを確認し合うのです。そして班長(クルーの責任者)を中心に当日の反省と研究をしてホテルに戻り、まずは入浴と洗濯。

 で、夕方からはルールの勉強会。審判が絶対に犯してならないのはルールの適用ミスで、特にその年の改正ルールについては入念に頭に叩き込みます。その後の夕食も基本的にはクルー単位で、ここでベテランと若手が酌み交わしながらさまざまな野球談議も楽しみます。ジャッジの責任は個人にあれど、ゲームの責任は全員のもの。そんなチームワークを磨くのもまた大切な「仕込み」なのです。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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