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山崎夏生のルール教室

苦肉のスピードアップ策 濃密な野球を取り戻せるのか/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

日本選手権[写真は22年優勝のトヨタ自動車]などの全国大会を除き、全国9地区40大会で7回制が導入される


【問】今季から社会人野球では投球の時間制限があり、けん制球や打者の打席外しにも規制がかかるそうですね。また試合でも7イニングス制という特別規定も設けられるのだとか。野球の本質にもかかわるような案件だと思うのですが、どういった経緯で実施されるのでしょうか?

【答】プロアマ問わず、野球界の大きな問題は試合時間の長さです。かつては9回を2時間から2時間半で終わるのが当たり前だったのに、昨季のNPB全試合の平均時間は3時間14分、アマチュア野球でも3時間を超える試合は珍しくなくなりました。戦術が高等化し、多くのサインプレーが企てられ、それに伴い間合いや駆け引きも重要な要素となっているからでしょう。

 とはいえ、それが野球の国際化を阻み、競技人口の減少や人気低下の一因となっているのは関係者の衆目一致するところです。

 その打開策の一つとして日本野球連盟(JABA)は「スピードアップ特別規定」を定めたのです。詳しくはホームページに記載されていますが、要は今季からMLBで採用されるピッチクロック(無走者では15秒以内、有走者では20秒以内の投球義務)とけん制球や打者の打席外しを制限する改正ルールをいち早く「内規」として取り入れる、ということです。

 また全国9地区40大会において7イニングス制で試合が実施されることも決まりました。都市対抗や全日本選手権、クラブ選手権などの全国大会は従来の9イニングス制ですが、まずは地方大会で実証実験として行われます。当然ですが試合は9分の7に凝縮され、内容も濃密となり一球一打の重みも増すはずです。このスピーディーな野球がファンにも浸透し、人気化すれば本格的に導入しようという流れとなるかもしれません。これが高校野球や大学野球にも波及し、いずれはNPBでも、となる可能性もあります。

 現場に長らく立っていた者の実感として、試合時間の長さの一番の要因は投手の投球テンポとサイン交換だと感じていました。ここさえ改善されていけば試合は3時間を超えることは滅多になくなるのですが、もはや感覚的に今のペースが当たり前だと思われているのでしょう。そこに着目せず、こういったルールや内規で試合時間を短縮せざるを得ないのは野球界として悲しい現実でもあります。ただ野球は時代の要請に応え進化していくもの、ますます面白い試合を見せてもらえるならば異存はありません。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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