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山崎夏生のルール教室

リクエスト制度の意義 ハード面の改善は必須となる/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

適切なリクエスト制度にするためにも、検証用の球場カメラの増設などハード面の向上が求められる


【問】4月8日のオリックス日本ハム戦(京セラドーム)でのこと。4回に起きた、二塁での封殺プレーで中嶋聡監督(オリックス)はアウトの判定に対し、即時にリクエストを要求しました。場内のビジョンに流された映像ではタイミングはセーフのように見え、オリックスファンからの歓声も上がったのですが、判定は覆らずブーイングが沸き起こりました。審判団の検証するリプレイ映像は同じものではないのですか?

【答】NPBでは2018年からリクエスト制度が採用されましたが、MLBのチャレンジ制度とは似て非なるもの、なのです。その決定的な違いは映像設備の確かさと検証システムにあります。

 MLBではニューヨークに専用検証ルームを設け、全15試合を中継し、そこに常時8人の現役審判員を配置しています。専用カメラは各球場に20台設置され、あらゆる角度からの鮮明でスーパースロー再生もできる映像が提供されます。そのための初期設備投資額は30億円以上にもなりました。しかるにNPBで提供される映像は中継テレビ局のもの数カットのみで、スタンドで流されるものと同じです。その検証をさせるのも当該審判を除く出場審判の3人だけ。いわば現場に丸投げなのです。

 ですから、判定を覆すに足る絶対的な映像がなければ変えない、は当初から12球団の了解事項でした。例えば野手の背後からの映像だったためグラブに送球が収まった瞬間が見えない、砂煙が上がったため走者の足と塁の隙間が確認できない、タッグと走者の接触の決定的瞬間が捉えられていない、こういったケースでは判定を覆せないのです。つまり疑わしきは当初の判定どおり、ということです。その不満や怒りの矛先はこういったハード面での責任を担う野球機構や球団側に向けるべきではないでしょうか。この制度ができて6年目ですが、いっこうに改善されていないのが残念です。

 ちなみに採用初年度(2018年)は一軍公式戦858試合で494回のリクエストがあり、判定変更となったのは162回(32.8%)。以後も大体同様の数字で、判定変更率は33%前後で推移しています。ただし、この数字は先述したように「疑わしきは変えない」という原則に支えられています。

 余談ですが、よくぞあのプレーの瞬間を見極めていたなあという現役審判の見る力の確かさを映像で証明することもたびたびあります。「神ジャッジ」などというファンからのうれしい言葉も見かけるようになりましたね。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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