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山崎夏生のルール教室

審判団だけに責任を負わせない リプレイ検証の設備整備を/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

サヨナラかどうかの重要な場面。塁審も離塁の瞬間をしっかりと見ていたが、映像なしではその証明すらできなかった


【問】8月12日のロッテ西武(ZOZOマリン)は同点の9回裏、一死二、三塁からセンターへの犠牲フライでロッテのサヨナラ勝ちとなりました。しかし松井稼頭央監督(西武)はその直後に三塁走者・岡大海選手の離塁が早かったのではないかとリクエストをしました。その結果は「検証するためのリプレイ映像がありませんので、判定どおり得点とします」とのこと。どうにも納得のいかない結末です。

【答】ですよね……。

 何のためのリクエスト制度なんだ、と憤るのも理解できますが、現状では仕方のないことなのです。同様のケースは5月28日の楽天日本ハム(楽天モバイル)でも起こっています。

 以前にも当欄で説明しましたが、審判団がリプレイ検証をする映像は中継テレビ局が撮影しているもので、せいぜい2〜3カットしかありません。通常、カメラマンはまずは打球を追い、野手が打球処理をした直後に次のプレーをする野手や走者にカメラを向けます。ですから、打球とほかの野手、走者すべてが一つの映像の中に納まっていることはほとんどないのです。そのためリクエストの要求があったとしても、そのプレーを検証する映像がないことも。当然、チームや観衆にウソをつくわけにはいきませんから、責任審判が場内放送でこう説明するのもやむなしなのです。

 こういった検証環境は野球機構や球団が整えるべきだと以前から主張していますが、一向に改善されません。選手会も自分たちの死活問題だと自覚するならば声を上げるべきではないでしょうか。

 ひとつ提案があります。実は私はNPB審判指導員時代も今も、いつもネット裏最上段で野球を観ています。そこからですと審判団の美しいフォーメーションもさることながら、打球から送球、走者などのすべてを俯瞰(ふかん)できるのです。例えばこのタッグアップ(通称:タッチアップ)のタイミングも、走者の追い越しや塁の空過、悪送球時の走者の位置なども無理なく視界に入っています。ここに定点観測のできるカメラを1台置くだけで、少なくともリプレイ映像がありません、という事態は避けられるのではないでしょうか。もちろん数cm単位で判断の決まる微妙なプレーなどは分かりませんが、今の映像技術でしたらズームアップすればかなり精度の高い映像も提供できるのではないかと思います。

 現行のリクエスト制度を進化させていかなければ不平不満が審判団にばかり向けられることを憂慮します。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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