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山崎夏生のルール教室

観客がファウルフライをキャッチ 守備妨害と捕球位置のリクエスト/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

同点の緊迫した場面だっただけに新井監督[右]も確認へ向かった。リクエストの対象をどこに置くかも重要な判断となる


【問】4月13日の巨人広島戦(東京ドーム)で、広島の三塁手・田中広輔選手は三塁ファウルゾーンへの飛球を追って、客席のフェンス際へグラブを差し出しました。ところが、捕球寸前でエキサイトシートで観戦していたファンにその飛球を捕られてしまったのです。新井貴浩監督(広島)は守備妨害ではないかと審判団に説明を求めましたが、責任審判の場内放送は「ファウルフライがフェンスよりお客さんの席のほうで捕られましたので、妨害にはなりません。ファウルとして再開します」とのこと。数年前に同様のケースで井口資仁監督(ロッテ)がリクエストを求めて判定が覆った事例があったような気がするのですが。

【答】よく覚えていますね。確かに2021年の楽天対ロッテ戦(楽天モバイル)で、ロッテの左翼手・角中勝也選手が左翼フェンス際の打球を観衆に妨害され捕球できなかったことがありました。このときはリプレイ検証によりファウルが一転、アウトとして試合が再開されました。では、この2つのケースの違いは何か?

 まず「守備妨害」についてはリクエストの対象外なのです。例えば打球や送球処理直後の野手と走者に接触がありそれが守備妨害か走塁妨害か、あるいはそのプレーに対して野手や走者に故意性があったか否かなどは当該審判による「判断」に委ねられます。よって、「守備妨害」や「走塁妨害」はその場で起こった接触などの「事実」の確認ではなく、「判断」ですからリプレイ検証はしません。

 今回のケースでは田中選手のグラブが観客席内に入っていたという前提での判定でした。ですから「観衆の妨害・原注」(6.01.e)にあるように「野手がフェンス、手すり、ロープから乗り出したり、スタンドの中に手を差し伸べて捕球するのを妨げられても妨害とは認められない」を適用し、リクエストにも応じませんでした。

 井口監督のケースでは角中選手のグラブが観客席側だったか、フィールド内だったかという事実の確認を求められました。これはリクエストの対象となりますし、リプレイ検証も行われます。このときは明らかに観客の手がフィールド内に入り込んでいました。

 ですから新井監督は「守備妨害」ではなく、その差し出された両者のグラブの位置関係のリクエストを求めればよかったわけです。意思の疎通を欠いていたのかもしれませんが、やはり審判はリクエストに対してもチームを有利に誘導することはできないのをご承知おきください。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社.東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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